『リトルバスターズ! エクスタシー』感想

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タイトル リトルバスターズ! エクスタシー外部サイトへリンクします。
ジャンル 恋愛アドベンチャー
発売日 2008/07/25
リトルバスターズ! エクスタシー
評価点
78 / 100
最大瞬間風速 沙耶(80/100)
総プレイ時間 70.8時間
主人公 7/10
お気に入り 西園 美魚
ユーザビリティ 8/10 8/10
グラフィック 7/10 7/10
ムービー 7/10 7/10
主題歌 8/10 8/10
BGM 8/10 8/10
ストーリー 8/10 8/10
演出 7/10 7/10
感動 7/10 7/10
読後感 8/10 8/10

(評価点や作品に望むこと等については「レビューポリシー」をご参照ください。)


0. まずは一言

ひとりが辛いからふたつの手をつないだ
ふたりじゃ寂しいから輪になって手をつないだ
『Little Busters!』

という歌い出しで始まるmoratoriumな世界での成長物語.世界の秘密を巡る構成にやや瑕疵があるように見受けられますが,彼らの日常はまさに駆け抜けたくなる青春でした.


Attention!!

この感想はゲームをクリアした人に向けて書かれています。
まだゲームをクリアしていない人が読むと、作品の面白さを損なうことがありますので、ご注意ください。

1. 作品全体について(ネタバレ小)

1.1. 共通シナリオが1番楽しかった:世界観

恭介によって日常のあらゆることがミッションとなった学園生活は,笑いありミニゲームありと非常に楽しめました.総勢10名のリトルバスターズによって繰り広げられる,愉快なバカ騒ぎの毎日.この今がずっと続けばいいのにという彼らの願いに共感できました.

楽しい日常で盛り上がった共通シナリオに対し,野球やバトルランキングを終えて個別ルートに分岐する辺りからその熱気もいくらか冷めてしまいました.と言うのも,サブヒロイン達の物語の多くが最終シナリオへの前振りのために費やされているからです.いわゆる「世界の秘密」を知らないまま読むと,その意図が分からない場面に多数遭遇し,すっきりしない想いを抱えることになってしまうのです.たしかに,最終シナリオを読み終えてから再び読むと,隠された伏線や隠喩表現に納得出来ます.しかしながら,初読時に楽しめなければ意味がありません.この構成は,物語を楽しむ上での枷になっていると感じました.

  • ずっと続けばいいのに

    この友情に彩られた青春の価値が,最重要の伏線となっています.

  • 意図が分からない場面

    誰かのルートを終えた時点でループ世界であると気付けるようになっているものの,世界の秘密が見えてこない以上はその意図を理解することはできません.

1.2. これといって特徴はないけれど:主人公

大人しめで優しい理樹くんは,安心して読んでいられる主人公でした.コメディの場面では,ツッコミ役として十分頑張ってくれました.

1.3. 主題歌の使い方はやはり巧かった:グラフィック,音声

原画はNa-Gaさんと樋上いたるさんの2人が担当しています.いたるさんの描く立ち絵は相変わらずどことなく違和感がありますが,彼女の絵があってこそのKeyなのだと強く思っているのでそれほど不満はありません.

声優陣によるCVは作品の価値を底上げしていて,特に沙耶役の風音さんや来ヶ谷さん役の一色ヒカルさんは流石だなと思います.ただ,いくらか気になるのは,リメイク前後で収録された音声に明らかな違いがあることですね.

Key作品ということで,音楽には大変な期待が掛かります.今作も良い楽曲が多数ありました.まず,何と言ってもOP主題歌の「Little Busters! -ecstasy ver.-」とED主題歌の「Little Busters! -Little Jumper Ver.-」ですね.このヴァージョン違いの両曲はともに歌詞がストーリーに沿っており,最終シナリオを読み終えた後に聞くと感動も一入(ひとしお)です.他のボーカル曲「Saya's Song」「遙か彼方」やそれらのインストルメンタルも,とても感動的でした.

  • ED主題歌

    あわせて流れるEDムービーも素晴らしかったです.

  • 歌詞

    夢の世界を絶ってバス事故による過酷を乗り越えて欲しいOPと,事故を乗り越えまたみんなで遊ぶ日々を得たED.後になって思えば,「どんな夢も絶てる気がするんだ」で始まるオープニングはかなり不吉ですよね.

1.4. 繰返しプレイを飽きさせないために:演出

多数のミニゲームが挿入されている中,何よりも野球にはゲーム本編の進行に支障を来たすくらい熱中してしまいました.バッティング練習を好きなだけ遊べるモードをおまけで実装して欲しかったくらいです.また,ミニゲーム自体をOFFにすることも出来,本編の進行(周回プレイ)を妨げないことは良いと思います.ただ贅沢を言えば,ミニゲームをどれだけクリアしても特に意味が無いことが残念でした.

新規イベントの発生,理樹と鈴の絆の有無による会話の細やかな変化,肝試しのチーム分けによる会話パターンなど,周回プレイを前提とした作り込みが成されていました.

Key作品にえっちなものを求めてはいけないのはお約束ですが,それを逆手にとって「Sha La La Ecstasy」という(いわゆる)失笑必至のBGMを持ってくるとは思っていませんでした.

  • 野球

    試合では何故かコマンド選択式でした.残念極まりないです.

  • 支障を来たすくらい熱中

    最高14コンボまでしか繋げられませんでした.時速48Kmから159Kmまでを投げ分ける鈴の玉を打てるキャプテンチームはすごいですね.

  • OFF

    コンフィグでON / OFFを切り替えられるようにしてくれれば,なお良かったですね.

  • えっちなものを求めてはいけない

    ……実は葉留佳ルートにて,口でするのに咥えるCGもないのかとガッカリしました,


2. 個別シナリオやヒロインについて

ひとりが辛いからふたつの手をつないだ
ふたりじゃ寂しいから輪になって手をつないだ
『Little Busters! -ecstasy ver.- / -Little Jumper Ver.-』

という歌い出しで始まる主題歌が本作そのものとなっています.

理不尽な現実に立ち向かうために:作品テーマについて

本作のテーマを一言でまとめるならば,「大切な何かを理不尽に奪われ続ける過酷な現実を乗り越えるためにどうするか」でしょうか.理樹が最後に悟るように,生きることは友人や恋人を失い続けることを伴います.しかし,それを知ってなお,その現実を逃避せずに受け入れて彼らと出会わなければ,大切な友情や幸福を手に入れることは出来ません.そして,その強い絆さえあれば,いつか来る過酷も乗り越えられるのでしょう.

なお,サブヒロインら(リトルバスターズの新規メンバー)の個別ルートにおいては,「本当に悪意を持とうとする人はいない」というサブテーマが統一して使用されているようです.使われ方は様々ですが,記憶や認識に絡めて度々登場します.

  • 大切な友情

    理樹と恭介らの友情は,過酷な現実を乗り越えていく手段となりました.ところで,理樹と恭介らの関係は被保護者と保護者のそれであり,大団円のハッピーエンドをもって友情となったともいえます.

  • 強い絆

    今になって思えば,Keyが『Kanon』以来描いてきたものは「理不尽な現実から逃げ出さず,哀しみを乗り越えて強くなる」ことに集約されるのでしょう.その依り代が家族愛か友情かの違いはありますが.

  • 本当に悪意を持とうとする人はいない

    Refrainで明かされるように,この世界の秘密は2人を助けたいという無条件の善意で成り立っています.

  • 使われ方は様々

    小鞠:なし(強いてあげれば「兄の嘘」),
    クド:悪気のない嘲笑.
    葉留佳:姉と両親,
    美魚:記憶と認識,詩集の本,
    唯湖:自分の虚構世界の創造

想像が創造する虚構の世界で

すべてのきっかけは修学旅行の最中に発生したバス転落事故.これにより,リトルバスターズおよび乗客全員が死に瀕していました.リトルバスターズは,(助かる可能性が最も高い)理樹と鈴を案じて,彼らを精神的に成長させるための虚構の世界(以下,虚構世界)を作り上げました.恭介の想いにリトルバスターズの面々が呼応して虚構世界が成立したことからか,彼はマスターとして強い権限を持っています.マスターの権限を持つ者が強く願えば,世界を望む形へ動かすことも出来ます.謙吾や真人の他,何人かのサブヒロイン達もこの権限を有しているのですが,少しややこしいことに,記憶の蓄積レベルマスターとしての自覚はそれぞれ異なるようです.

オープニング画面で揺らめく光の玉は,虚構世界を構成するマスターの人数を表します.初め8個だった光の玉はサブヒロイン達が役目(心残り,目的)を果たすごとに1つずつ減少し,最終シナリオ(Refrain)の段階で3個まで減ります.役目を終えたサブヒロインはマスターの権限を失い,世界を構成しつつも徐々に当たり障りのない行動を取る ようになります.

ヒロインからの最後のメッセージであるはずが

サブヒロイン達は,理樹と鈴の成長への協力とは別に各自の目的を持っていました.理樹はリトルバスターズのメンバーを集め,親交を深めながら彼女たちの心残りを解消していきます.

ここで問題になるのは,「世界の秘密」が明らかにならない状態で個別ルートが進んでいくことです.そのため,技巧を凝らしたであろうテキストも,残念なことにその多くが意図の分からないまま終わってしまいました.さらに,本線ルートで中心となるのも幼馴染(旧メンバー)たちの友情で,新規メンバーはバス事故からの救出の際に一切言及されない程度の脇役扱いでした.これでは,彼女たちのルートは,理樹のために割り振られた成長の場でしかないかのようです.この物語の構成はあまり良くなかったように思います.

世界の秘密が明らかにされていること

これまでKeyが送り出してきた作品は,世界の謎について明確な言及をすることなく終幕を迎えていました.しかし,本作では「世界の秘密」について仕掛け人である恭介自身から詳細に語られています.虚構世界を構築する力の根源については触れられていませんが,本線を理解する上では細かく考察する必要がなくなりました.これまでと違って物語の舞台となる世界が最初から仮想世界であったからという以上に,何か理由があるのでしょうか.

  • 虚構世界

    この世界観がいずれ『Angel Beats!』に繋がっていくのですね.時系列通りにこの作品をプレイしていたら,もう少し評点が高くなったかもしれません.

  • 強い権限

    虚構世界のリセット,理樹と鈴の記憶操作,携帯電話の接続・切断,NPC(non-player character,自律行動しない人物)の操作などに及びます.

  • 世界を望む形へ動かす

    理樹を好きになる/理樹に好かれる気持ちが,世界の成り立ちからも強く反映されるのでしょうか.来ヶ谷は新しく世界を作りましたし,美魚は美鳥を作り出しています.しかし,他のヒロイン達は恭介の都合で動かされているような印象も受けます.

  • 記憶の蓄積レベル

    現実で起きた事をベースに仮想世界を繰り返しているので,これから起きることをあらかじめ知っていたり覚えていたりしても,不思議なことではありません.

  • マスターとしての自覚

    少なくとも,クドと小鞠は彼女らのルートにおいて忘れているように描かれます.

  • 1つずつ減少し

    すべてのヒロインを主人公が救い,その後徐々にループから抜けていく構成は,実質的に「Kanon問題」を解消しています.

  • 徐々に

    具体的には野球イベント後の個別ルートへ分岐するタイミングです.

  • 当たり障りのない行動を取る

    分岐前では1度クリアしたヒロインについて一部選択肢が選べなくなっています.個別ルートが進行していくと本当に世界から消えている可能性が,美魚ルートで示唆されています.個別ルートで他のヒロインが登場しなくなる作品への皮肉でしょうか.

  • リトルバスターズのメンバー

    変わり者集団として知られているリトルバスターズに新たに加入するサブヒロインもやはり変わり者揃いでした.

  • 意図の分からないまま

    クドシナリオを読んで水牢からの脱出に呆然したところから苦しみは始まったのでした.

2.1. 能美 クドリャフカ(7/10)/ わふーと可愛いマスコット

(C) Key
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「わふー」という口癖と笑顔がとても愛くるしいクド.「他人からの視線と自己存在の不一致」に悩む彼女には悪いのですが,ひらがな英語を話す一方で熱い緑茶が大好きという意外性はたしかに可愛いのです.これだけ可愛いキャラクターを描けたのなら,あれほどまで故意の病(物語に山と谷を作るための障害)によってクドを可哀想な目に遭わさず,素直に可愛さを前面に出せば良いのにと強く思います.

せめて,一つを消すのではなく

クドシナリオは,現実世界で故国テヴアに帰らなかったことを彼女が後悔するお話です.クドは母の搭乗するロケット打ち上げ失敗の報を聞いても,(片想いしている)理樹と一緒に居続けることを優先して現地に向かいませんでした.その後,暴徒と化した国民の手で母は公開処刑され,認識票が遺品としてクドの元に届けられます.失意の中,クドはドッグタグを胸ポケットに入れ,修学旅行に参加していました.

虚構世界でクドは理樹との別れを選択して母の元へと向かいますが,その結果は悲惨なものでした.クドの激しい後悔の念が作り上げた水牢に鎖で吊され,自責の念に苛まれながら理樹と別れたことを後悔します.どちらを選んでも後悔するのなら,せめて,一つを消すのではなく一つを選ぶしかないのですね.なお,この地下牢からの脱出から学園への帰還ですが,初読時はその突拍子もない描写に呆然とするばかりでした.そのため,そのストーリーの盛り上がりについて行けず,あまり楽しめないまま終わってしまいました.

バス事故から生還後,クドは理樹と部室で母からのビデオレターを観ます.理樹とともに50ノーティカルマイルの空を目指す夢は叶うのでしょうか.その結末は『クドわふたー』をお楽しみに,ということなのでしょう.

  • ひらがな英語

    「ふぉーふつれー」で"for future"と分かるのは,なかなか高度なことかと思います.

  • 片想いしている

    クドにとって,理樹は自分のことを初めて好奇な目で見なかった男性のようです.

  • 公開処刑

    バッドエンドを読むのはとても辛かったです.母が銃殺される場面などよく描けたものです.

  • 悲惨

    もう帰ってくることが出来ないと定められていたライカ犬,クドリャフカ.

  • 一つを選ぶしかない

    『君が望む永遠』香月モトコ

  • 突拍子もない描写

    願いが叶うこの虚構世界では,ヒロインの気持ち次第で奇跡も起こります.

  • 50ノーティカルマイル

    宇宙まで50マイルというのは,"nautical mile"ではなく"statute mile"を指すのではないかと思います.

2.2. 神北 小毬(7/10)/ 次の楽しいことを求めて,長い坂道を登る.

(C) Key
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「ようしっ」と掛け声1つで前向きになる小鞠ちゃん.彼女は,他人の幸せを喜ぶことで自分も幸せになる「幸せスパイラル理論」を提唱していました.ほんわかとした口調も伴ってとても脳天気に見えますが,虚構世界でとても重要な役割 にありました.

素敵なことを探そう

小鞠が(かつて)抱えていた心の病とは,兄の死を受け入れること.小鞠はこれまで兄の存在を夢として忘却し,なかったことにしてきました.これは,両親の死に折り合いが付いていないことが原因でナルコレプシーに陥る理樹と,とてもよく似ています.ここで,兄が小鞠にプレゼントしたオリジナルの絵本(にわとりとたまご)は,小鞠(と理樹)が受け入れるべき事がそのまま描かれていました.「悲しいから忘れる.だけど,いつかそれを受け止めなければいけない.だから,最後に思い出す.悲しいことはなくならないから,素敵なことを探すのだ」と.まさに,その通りです.

ある雨の日に,子猫が死ぬ場面に遭遇した小鞠は大きく取り乱します.小鞠は兄の死を思い出して心が壊れてしまいました.理樹にかつての自分に似た姿を見せつけるとは,なかなか恐ろしい手法です.小次郎(小鞠の祖父)に話を聞き,小鞠の兄の真意に気付いた理樹は,現実を夢だと思い込んで逃避する小鞠にオリジナルの絵本を描いて送ります.なお,この絵本にページを追加する最後の場面は,現実世界に帰ってからの出来事とは言えなさそうです.

なお,小次郎のような小鞠の問題を詳しく知る人物を虚構世界に登場させるためには,マスターの誰かがこの人物を再現しなければなりません.おそらく,現実世界ではすでに恭介主導で何らかの救済が行われており,虚構世界ではこれを理樹と鈴のみで頑張ることが精神的成長の手段として選ばれたのでしょう.小次郎は小鞠が再現した者であり,同じ道を歩ませたくない小次郎の意志は小鞠自身のものではないでしょうか.

ところで.理樹はRefrainにてナルコレプシーを克服しますが,そのヒントを小鞠は星の願いとして以下の言葉を何度も理樹に送っていました.

あなたの目が もう少し
ほんのちょっとだけ 見えるようになりますように.
(神北小毬 / 小毬シナリオ)

悲しいこともあったけれど,自分のことを見てくれる人たちと,彼らのくれた幸せを忘れないでください.虚構世界の終わりに鈴へ最後の願いを託したように,小鞠シナリオでは理樹にメッセージを残していました.

特別な役割?

さて,小鞠はサブヒロインの1人ではありますが,その立場は他のサブヒロインと大きく異なるようです.小鞠ルートでは一歩引いた目で理樹と自分自身に「見えるようになりますように」と言いますし,Refrainでは他のマスターがいなくなった後も虚構世界に残り鈴に別れの言葉を贈ります.このような振る舞いを見ると,恭介は小鞠に特別な「権限」を与えているようにさえ思えます.

  • 他人の幸せを喜ぶ

    自らの幸せよりも理樹と鈴の幸せを祈った小鞠.BADエンドでしかえちぃシーンが存在しないのもそのためか.

  • 重要な役割

    オープニングムービーで,小鞠はヒロインの鈴よりも真っ先に名前が紹介されます.また,8人の小人(リトルバスターズ)の悩みを2人(理樹と鈴)が解決していく絵本を現実世界でも描きました.

  • なかったこと

    ここで,理樹に恥ずかしい姿を見られたときの「なかったことにしよう」が活きてきます.

  • にわとりとたまご

    虚構世界でクドも母の死を忘れていますし,もっと深い問題なのかもしれません.

  • 大きく取り乱します

    リトルバスターズの誰かが怪我して血を流すのを見て小鞠が呆然とするような前振りが,事前にどこかで必要かと思います.

  • 逃避する小鞠

    果たしてこれは演技なのか,それとも恭介が記憶を消しているのか.それとも遠隔操作しているNPCなのか.

  • 絵本

    理樹が書いた絵本が読みたかったです.天体観測での「8個の流れ星」とマッチ売りの少女の流れ星は,その結びつきをもっと印象づけたところで見せてほしかったです.

  • 小次郎

    小次郎の妻が「こまり」という名であることは偶然なのか,それとも小鞠の創作なのか.

  • 何らかの救済

    小鞠が鈴に対して異様に優しいのは,小鞠の性格に起因するところもありますが.鈴が小鞠の現実での問題解決に一定の役割を果たした可能性があります.

  • 再現した者

    同様に,葉留佳の両親および三枝晶は佳奈多,佐々美は小鞠(ルームメイト)による者でしょう.

  • 「権限」を与えている

    理樹の抱える問題との類似性や鈴の1番の親友であったことなどによるものでしょう.

2.3. 三枝 葉留佳(7/10)/ 私はここにいるよ!

(C) Key
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「やはは」とごまかし笑いが多い葉留佳さん.彼女の生い立ちに関して同情すべき点はたしかに多いのですが,(葉留佳ルートを終えた時点では)彼女自身をどうも好きになる事が出来ませんでした.この学園の風紀委員がどれだけ横暴でも,葉留佳さんの素行や引き起こした案件自体は彼女の我が儘でしかありませんでしたしね.

葉留佳シナリオの話題は,自らの不幸を嘆くばかりでは何も変わらないということです.自らの不幸の受容した葉留佳は,佳奈多の苦しみを理解し対話を持ちかけます.双子の姉である佳奈多との確執を解消するまでのストーリーは,「世界の秘密」への伏線も控えめで,個別ルートの中では比較的楽しめるシナリオだと思います.しかしながら,三枝家の因習とその犠牲になった姉妹の惨状を読み続けるには,いくらか精神的負荷に耐えなければなりません.また,伏線の仄めかし方があからさま過ぎたこともマイナスでした.

やっと見つけた居場所

葉留佳の望みは何よりも自分の居場所であり,誰かに必要とされることでした.幼い頃からずっと佳奈多と競わされ,負け続けた葉留佳は自己を否定され続けました.葉留佳が生きていくためには自らの不幸を呪いながら姉を敵視するしかありませんでした.

理樹とともに本当の父親を調べる過程で,葉留佳はマイナスを押し付け合う不毛さと佳奈多が自分のことを案じていることに気付きます.自分の不幸を受けいれ,その上でどうするべきかを考えるようになる葉留佳.彼女は佳奈多と手を取り合い,姉妹で三枝一族と戦うことを決意しました.

さて,自らの血統を崇めさせ,異父重複受精を試みるなど特異な因習を続けてきた三枝家ですが,彼らの言動には心の底から嫌悪感を覚えます.姉妹の仲直りでは障害の根本が解決することなく,山の上の人々に打ち勝って初めて意味があります.おそらく,最後の写真を撮る場面は,本当に全てが解決してからの一幕なのでしょう.その間にある,バス事故からの生還後のお話として諸悪の根源との戦いが描かれなかったことは,とても残念に思います.

なお,同じバスに紛れ込んでいた葉留佳はともかく,本来は虚構世界を構成しないはずの佳奈多.彼女については,リメイク時に追加された佳奈多ルートで明らかになります.

  • 葉留佳

    「そんなこと言うひとは大嫌いなんだからっ」は,真冬にアイスクリームを外で食べる彼女のセルフカバー.なお,美魚も「そういうことを言う直枝さんは嫌いです」と,同様のことを言っています.

  • 比較的楽しめる

    明かすべき背景をある程度示せているからでしょうか.例:春の日のベンチの思い出以来,葉留佳は理樹に会いに来るようになったこと.学校に通わせてもらえなくなり,他人との距離の取り方が育たず型破りの行動取ること.

  • あからさま過ぎた

    姉妹は双子であること,佳奈多の葉留佳へのなりすまし,など

  • 誰かに必要とされる

    自分が好きな相手にまで入れ替わりを気付いてもらえなかったら,それは誰だって死にたくなります.

  • 自らの不幸を呪いながら

    私が葉留佳の立場/状況でしたら,間違いなく自殺しているでしょう.

  • 姉を敵視する

    思い込みが視界を曇らせる点では,美魚シナリオにおける記憶の話が近いですね.

  • マイナスを押し付け合う

    心の防衛として,自分より不幸な者を見つける/作ることは,とても一般的なことです.

  • 異父重複受精

    異父二卵性双生児で双子入れ替えトリックが可能かは大いに謎なところです.ところで,何故劣っていると判断された子の方(葉留佳)が三枝の名字を名乗っているのでしょうか.分家である二木家が本家を乗っ取り,こちらの名字の方に価値があるのでしょうか.

  • 山の上の人々

    葉留佳は「悪意はどこにもなかった」といいますが,彼らにもこれは当てはまるのでしょうか.強いて言えば,山の上の人々は,自分たちの幸せを求めたり,あるいは因習から抜け出せなくなっていたりする人たちなので,そこに悪意はないと言えるのでしょうか.どちらにせよ,馬鹿な大人たちの集団には違いないのですが.

2.4. 西園 美魚(7/10)/ 孤独を愛し,哀しむ

(C) Key
(C) Key

をこの上なく愛する美魚.物静かで冷静な彼女は,白と黒の私服に小首を傾げている立ち絵がとても可愛かったです.また,意外とお茶目なところもありました.ゆらりと両手を前にぶら下げる怪しい手付きの立ち絵がありましたし,葉留佳が提案したチャンバラ(かたじけのうござる)での動きや,人形劇での名演技など,面白い場面もありました.

美魚シナリオは,他のルートとは違って,近代文学的な素養の上に詩的表現が繰り広げられます.これを美しいと感じるかどうかで面白さに格段の差があるとは思いますが,終盤まで不安にさせる感情の揺らぎはこれまでの諸ルートの中では良かったです.さらに,作品テーマとの関係性が高く,記憶と認識を題材に(やがて奪われる)日常の価値を説きました.

青に触れなければ失うこともないが……

美魚の心残りは,幼い日のイマジナリーフレンドであった美鳥に贖罪をすることでした.美魚はこの世界での生活を美鳥に譲り,彼女自身は白鳥となって皆の前から姿を消そうとします.美魚にとって,若山牧水の短歌「白鳥は 哀しからずや 空の青 うみのおをにも 染まずただよふ」は彼女の心情そのものでした.美魚はその白鳥の孤独に愛しさを感じていたのです.

しかし,一方で,美魚は,人の輪(空の青,海の青)に馴染めない悲しさも感じていました.美魚のことをたった1人忘れずに覚えていた理樹は,美魚を探し求めます.美鳥が美魚の居場所についてヒントを出すように,美魚が本当は別れたくないと思っていたようです.理樹が空の青となり白鳥の孤独を溶かすことで,美魚はこの世界に帰ってきました.

  • 文学や推理小説だけではなく,薄い本も相当読まれるようです.

  • 物静か

    存在感が薄いことからカゲナシとクラスメイトに呼ばれる美魚ですが,本当に影がなく,日傘を手放さない理由に掛けてきたことにとても感心しました.

  • 人形劇

    恭介は人形劇を行うに当たって脚本をあらかじめ作っていたようです.ここで,彼は探し出した4個の人形に役を割り振りますが,つまりその集まる数を知っていたということ.こんなところにまで,ループのヒントがあったのですね.

  • 記憶と認識

    美魚がメガネを掛けていたかどうかで美鳥が理樹を揺さぶるシーンはとても印象的です.

  • 彼女の心情そのもの

    そんな彼女に,私はとても親近感を覚えます.

  • 愛しさ

    「愛しさ」と書いて「かなしさ」と読みます.

2.5. 来ヶ谷 唯湖(7/10)/ 初めての恋する感情は抑えられず

(C) Key
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どのヒロインよりも格好いい来ヶ谷さん.理樹に陰湿な嫌がらせを繰り返していた女生徒2人から,彼女らと数学教師との淫行現場を抑えて理樹を助け出す場面はとても格好良かったですね.まさに,姉御です.ドアを叩き破る彼女に理樹が惚れてしまうのも分かります.主人公のことを好きである自覚がないヒロインに,主人公が好きですと告白するパターンがまず良いですよね.そのために,理樹と恭介らが告白の練習をする場面も面白いです.

来ヶ谷の課題は,自身の感情を自覚すること.幼い頃から何でも出来てしまった彼女は,他人と共感することがどうも不得手であったようです.その彼女が理樹やリトルバスターズメンバーと触れ合って,どのように自身の感情の発露に気付いていくかというお話です.理樹に恥ずかしくなる科白を言われて,面映ゆく照れたり喜びを表したりするところがとても可愛かったですね.

世界の秘密の一端を仄めかす

来ヶ谷は虚構世界の仕組みに気付く唯一のヒロインとして描かれます.来ヶ谷は今までにない理樹への感情を制御できなかったのでしょうか.彼女はこの虚構世界を虚構と受け入れ,理樹と恋人となった先の世界を願い新しい世界を作ってしまいました.もともと6月20日(おそらく,修学旅行のバス転落事故の日)より先に進む事が出来ない虚構世界を,来ヶ谷はループまでさせて存続させようと試みます.その代償か,切ないことに来ヶ谷は理樹のことを忘れていってしまいました.残念なのは,「世界の秘密」そのものを語るわけにはいかないので,その秘密の一端を仄めかすことばかりに終始してしまったこと.そのため物語がとても曖昧になってしまいました.

世界が崩壊した後,来ヶ谷の理樹への想いは彼女が作り出した放送室に留まりました.いつかこの「願いがかなう世界」の想いを何らかの方法で取り戻し,秋の告白に繋がるのでしょう.Refrainのエピローグで彼女が曖昧な態度を取るのも,入院中に見た夢の中で想いを取り戻したからかもしれません.

  • 陰湿な嫌がらせ

    事の発端は,理樹に片想いしている女生徒が,お昼のピアノ演奏の曲紹介を聞いて嫉妬したものではないかと想像します.……その場合,意図的に聞かせた可能性が出てきますが.

  • 理樹やリトルバスターズメンバーと触れ合って

    「楽しい」という感情を理樹達と分かち合った時に,来ヶ谷は「自分ひとりでは自分すら見えない」と言っています.美鳥も「誰か大切な人が傍にいて,初めて人は『自分』になるの」と言っており,この辺に来ヶ谷の言っていた美魚との「ルビンの杯」の関係が見て取れます.

  • 放送室

    お昼の放送を誰も気にとめていないのは,彼女が作り出した世界だから.

  • 秋の告白

    佐々美ルートの終盤にて,一度理樹がクロの世界から離脱しかける場面があります.この時,来ヶ谷の想いが残っている世界を経由して佐々美の世界に戻っています.佐々美ルートでは彼女の思いは回収されず,完全に理樹が誰ともフラグを立てていない状態で進行します.

2.6. 棗 鈴(7/10)/ 笑顔でいられるようになるには

(C) Key
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「こいつ馬鹿だ!」と激しいツッコミが印象に残る鈴.「くちゃくちゃだ」など新語を話す彼女は,少し精神的に幼い女の子です.そのため,メインヒロインでありながらあまり好きになれませんでした.ところが,付き合い始めてからの鈴は,それまでとは比べものにもならないくらい可愛くなりますね.一緒にお風呂に入る場面は印象に残ります.

鈴ルートは,恭介が鈴の精神的成長を促すお話です.レノンを通じて鈴(と理樹)に課題を与え,交換留学生制度で併設校に送り出せる程度まで成長させようとします.1度目は理樹に頼りっぱなしだった鈴も,周回を重ねると(無意識の記憶を元に)率先して課題をクリアし,対人関係も何とか挨拶が出来るようになります.

しかしながら,いざ併設校へ鈴を行かせてみると,彼女は1人で生きていくことはできませんでした.鈴のメールによるSOSは,なかなか心にくるものがあります.微笑ましさから悲しさまで,1つのシンプルな顔文字「(∵)」に,ここまで感情を乗せて表現できる事には素直に感心しました.一見,恭介が先を焦ったようにも見えますが,理樹と2人で併設校に行かせなかった事を思うに,彼らが逃亡することまで織り込み済みだったのかもしれません(詳細は後述).

Refrain:世界の秘密,純粋な願い

他のヒロインたちが退場し,リトルバスターズの物語は佳境を迎えます.理樹がかつての恭介をなぞるように仲間を集めるのに並行して,彼らの友愛の情が視点変更を交えて語られます.最後に,恭介らの強い想い(理樹と鈴に幸せになって欲しいという純粋な願い)によってこの虚構世界が存続していることが明かされます.このエピソードは"Last Episode: Little Busters"というタイトルテロップが表示されただけで感動しました.

ただし,メインヒロインである鈴については心残りな点もあります.鈴の対人恐怖症の原因となった幼少期のトラウマが明かされておらず,『最後のゆめ』で小鞠に(現実世界に帰ってからの)笑顔を約束するのみでした.

物語の綺麗さと,約束された大団円と

理樹と鈴は現実世界(と認識した世界)で目覚め,爆発寸前のバスから2人だけ逃げ出しました.このルートは,病院で理樹が意識を取り戻す場面で幕を閉じます.物語としての綺麗さやここまで描いてきたものを考えれば.ハッピーエンドを用意するべきではありません.リトルバスターズの皆に感謝しつつ,新しい出会いも求め,2人で理不尽な現実を生き抜いていく決意をするところで終えるべきだと考えます.少なくとも,続きを描くのであれば,「やがて来る過酷」に苛まれる2人を描写しなければなりません.

物語は約束された大団円に向け,もう少しだけ虚構世界が続きます.恭介が見せた仮想のバス脱出を拒否し,恭介の虚構世界を引き継ぎつつ理樹と鈴は再び記憶の中から虚構世界を作り出します.鈴はサブヒロイン達の笑顔を胸に理樹と生きる決意を抱き,理樹は鈴やみんなとの素晴らしい時間を得るためにナルコレプシーを克服します.2人の最大の問題は,ここにきてかなりあっさりと解消してしまいます.理樹や鈴の幼い頃の描写(トラウマとなる出来事,立脚点)は,たとえヒロイン数を削っても詳細に描くべき大事な場面だと思います.

トラウマを克服した2人は現実世界に帰り,バス転落事故からクラスメイト全員と葉留佳と恭介を助け出すことに成功します.これまで理樹達はリトルバスターズに護られ,虚構世界で恭介の言葉に誘導され従ってきただけでした.好意的に解釈すれば,ここで初めて恭介の思惑を超えたのです.みんなが2人を成長させ,成長した2人がみんなを助ける.この奇跡は,リトルバスターズがみんなで理不尽な現実に立ち向かい手に入れたハッピーエンドなのでしょう.

歌詞違いの主題歌が流れるエンディングでは素直に感動しました.彼らの修学旅行の行き先は海.タイトル画面に戻ってきて,いくらかの感動と達成感(と多大な疲労感)を覚えました.

  • 課題

    レノンの指令だけではなく,理樹と鈴でバッテリーを組ませたりキャプテンズと戦わせたりする野球を初めとしたミニゲーム関連も含みます.

  • ナルコレプシー

    新しい出会いよりも今の仲間を救うために両親の死を克服する.これは恭介の思惑には逆行するように見えます.しかし,理不尽に奪われた両親の死を受け入れ,新しい出会いによって現実を乗り越えた,とも言えます.

  • クラスメイト全員

    理樹達が助けたものが救助を手伝ったとしても間に合わないのが常識的な結末です.そもそも,理樹達2人のみが意識を取り戻す時点で不自然です.ここは,彼らを護った謙吾と真人のおかげだとしておきましょう.

  • 恭介の思惑

    とはいえ,この救出劇でさえ恭介が思いついた事のトレースでしかないのですが.

  • 行き先は海

    リトルバスターズで海に来たことがないという理樹の言葉はここにかかっているのですね.

井ノ原 真人 / 日常を貫き通す喜び

(C) Key
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自らのありのままを認めてくれる人/場所を求めた真人.真人がクドルートで「他人からの視線と自己存在の不一致」に言及するのも,この辺りの事情からでしょう.かつては恭介が,Refrainでは理樹が,それぞれ手を差伸べてくれました.真人の「馬鹿」な振る舞いには,作品を通して大変楽しませてもらいました.

  • 「馬鹿」な振る舞い

    これにより,みんなが楽しんで笑ってくれるなら彼は本望なのだろうと思います.

宮沢 謙吾 / 遊べなかった時間を取り戻したくて

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友達(リトルバスターズ)と思いっきり遊びたかった謙吾.打ち込んでいた剣道は,ただ後悔したくない意地で続けていたものでした.かつて,恭介らが彼の父親に勝利したことによって,剣道を止める機会も1度は得ました.しかし,それまで常勝だったこともありますが,何よりも友達と遊ばずに費やしてきた時間が意味のなかったものとなるのを恐れていました,そのため,彼は虚構世界を終わらせることに反対していました.せっかくリトルバスターズでみんなと思うままに遊べる様になったのです.骨折(した振りを)してはしゃぐ彼の笑顔がすべてを物語っていました.

ところで,小鞠ルートで理樹は墓参りにきた謙吾を見かけます.理樹が小鞠の兄の墓を見舞うことを察知して菊の花を変えているだけかもしれませんが,ここは古式の墓参りも兼ねているのではないかと邪推したいです.虚構世界で謙吾は彼女を救うことは出来たのでしょうか.

  • 後悔したくない意地

    謙吾と佳奈多は似ているところがあり,佳奈多ルートでは2人の会話が見られます.(好きでもない剣道を続けていたこと.変わりたくなかったこと.)

  • 古式の墓参り

    現実世界で屋上が封鎖されているのは古式が飛び降り自殺を図ったからか.この事件により小鞠のトラウマが発動している可能性も想像できます.また,恭介は野球勝負で古式をちらつかせて謙吾に勝利しました,ここで,古式の存在は恭介の手によるものだったことが分かります.つまり,謙吾に相談に乗らせ,屋上から飛び降りる古式を助けさせようと仕組んだ可能性も出てくるわけです.あの「茶番だ」という科白は,それに気付いてしまったのでしょう.

棗 恭介 / この世界の神様は

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恭介は虚構世界のマスターとして,まさに神にも等しい存在でした.理樹や鈴の精神的成長を望み,あらゆる事を見通して彼の思い通りに事を進めていきます.サブヒロインのルートにおいて,小鞠や葉留佳に対してはトラウマのトリガーを引き,クドなどについては都合の良すぎるタイミングで登場します.

鈴の併設校へのイベントもそうです.表向きは鈴の自律ですが,現実世界を2人で生きていくことを考えれば,理樹と2人で併設校に行かせてもいいはずなのです.おそらく,これは意図的に鈴の精神を壊し,理樹が対処できるかの訓練だったのでしょう.実際に,鈴の幼児退行にショックを受けた振りをして引きこもり,バスの引火爆発を防いでいます.真人の視界に異常も引き起こしていましたし,幼き理樹を演じて理樹にかつて仲間を集めた自分の道を歩ませました.バス事故からの予行練習も,1回切りの本番で確実に2人を助け出すためではなく,全員を助けさせる狙いがあった可能性を否定できません.

すべては理樹と鈴のため,虚構世界で人道に反した行為を恭介は続けてきました.2人を救うためとはいえ,リトルバスターズの皆を苦しめたのです.恭介はその苦しみを一切表さずにいましたが,彼の立場を思うと相当辛かったに違いありません.

なお,恭介の行動で唯一完璧でなかったことと言えば,来ヶ谷への告白でしょうか.「俺だって,いつでも完璧なわけじゃないやいっ!!」との言葉は印象的でした.

  • トラウマのトリガー

    小鞠では猫の死体,葉留佳では新聞のばらまき

  • 唯一完璧でなかったこと

    あとは,ロリコン疑惑のエピソードが挙げられますね.

2.7. 笹瀬川 佐々美(8/10)/ 負けず嫌いは自らを奮い立たせて

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鈴のライバルを自称する佐々美.理樹が臆せずに恥ずかしい事を言う度に見られる佐々美の照れ隠しが可愛いですね.彼女のシナリオでは,True END後に理樹が誰とも結ばれなかったとした想定でのアフタースートリーが描かれました,本編の世界観を引き継いでおり,その謎解きは世界の秘密を知ってから読むシナリオとしてはそれなりに納得いくものですが,探偵役の理樹があまり理知的ではなくもどかしく感じられます.むしろ,導入部でリトルバスターズの面々がお祭り騒ぎを繰り広げている場面の方が楽しめました.

続・世界の秘密

佐々美の元飼い猫がもたらした走馬燈には,世界の秘密に関わる追加設定がいくらか見られます.虚構世界は瀕死の者による強い思いによって構成されますが,近くの人間は無傷でも虚構世界に巻き込まれうることが示されます.また,BADエンドでは,佐々美が虚構世界に取り残され,現実世界の皆に忘れられてしまう描写もありました.

  • 近くの人間

    佐々美には,佳奈多にとっての葉留佳のように,自分と虚構世界を深く結びつけるメンバーがいません,そのため,たとえ近くのバスに乗っていても虚構世界を構成するメンバーにはなれなかったと思われます.

2.8. 二木 佳奈多(8/10)/ 妹を案じながら優等生を演じ続ける姉

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風紀委員長様の佳奈多.トマトは嫌いだけどトマトケチャップやナポリタンスパゲッティは好きという彼女に可愛さを感じます.基本的に憂いでいる佳奈多さんが可愛いのですが,彼女が心から笑ったときの笑顔にはとても大きな価値があります.

続・世界の秘密

佳奈多シナリオは,葉留佳ルートのいわば続編であり補完するためのお話でした.葉留佳ルートでの記憶を姉妹ともに引き継いだ上で開始されるので,すでにその敵対心が溶けた状態から物語が始まっています.葉留佳が佳奈多に話しかけるときに,不器用ながらも距離を測りながら歩み寄ろうとする姿がとても微笑ましいです.

このルートでは,(本来葉留佳ルートで明らかにすべきことであった)葉留佳が佳奈多を世界の敵として憎むようになったきっかけや,葉留佳の分かりやすい敵であり続けようとした佳奈多の心情が詳らかに語られます.特に,嘘の感情も思い込み続けると本当になるという場面は興味深かったです.また,本当は葉留佳にむしろ(数学的な)才能があって姉のためにわざと負けていた事実や,佳奈多は必死の努力で並以下にならないよう踏みとどまっているという描写も良かったです.姉妹への好感度がかなり上方修正されたルートでした.

最後のお見合いからの逃避行は,バス事故からの生還後を描いたものですね.リトルバスターズの本来の活躍(悪を成敗する正義の味方)が見られるのも,思えばこのエピソードだけかもしれません.なお,ここが現実世界であるからには,狂気じみた因習に縛られた三枝一族とどのように決着を付けるかが問題となります.佳奈多の根回しが何処まで有効なのか分かりませんが,その平和的解決まで出来れば描いて欲しかったものです.

ところで,BADエンドによると,理樹たちのバスが事故に遭う大きな音を佳奈多は他のバスで聞いていたようです.このとき,葉留佳やクドと関係が深い彼女は虚構世界に巻き込まれた のでしょう.佳奈多はマスターとしての権限は有していないものの,記憶をループ間で継承し自律的に行動しています.クドのルームメイトを探すときにも虚構世界がループしていることを仄めかしていました.理樹と鈴を強くするための世界において,自分は選ばれるべきではないと自覚もありました.佳奈多がしばしば,こんなところで遊んでいる余裕はないはずと理樹に忠告していましたが,その理由がここにあったわけですね.

  • 葉留佳ルートで明らかにすべきこと

    髪留めやマーブル模様のビー玉など,大事なエピソードばかりです.

  • 思い込み続けると本当になる

    これは小鞠の願掛けや美魚の影を思い出します.善意を信じれば,世界は輝いて見えるのかもしれません.

  • 佳奈多

    ロシア語でクドと会話している秀才であるような場面も,実は見せかけなのですね.

  • 虚構世界に巻き込まれた

    事故に遭っていなくても虚構世界には入れるのは佐々美シナリオから明らか.若干都合良くはありますが,葉留佳の自作自演を回避するという意味でメリットの方が大きいでしょう.

2.9. 朱鷺戸 沙耶(8/10)/青春を駆け抜けた少女

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肝心なところでうっかり屋さんの沙耶.目を閉じて照れている表情が可愛いですね.過剰なまでの自虐的な笑いや,本性をさらけ出してオーバーなリアクションをとる彼女を,風音さんが見事に演じていました.そんな可愛い沙耶と射撃ミニゲームを含む探索は程良く楽しむことが出来ました.Liaさんの透き通った声でエンディング主題歌『Saya's Song』が歌われる沙耶シナリオは,最後にプレイするのにとても相応しいものなりました.この幻想的なエンディングは,あや(沙耶)の生死について様々な解釈の余地を残しています.

虚構世界で手に入れた思い出

十数年ぶりに日本へと帰ってきたあやは,山奥の工事現場で土砂崩れの事故に遭い生き埋めとなってしました.少なくとも半年が経過した初夏,恭介らの創造した虚構世界沙耶として入り込みます.恭介に改変された学園の地下迷宮を理樹とともに踏破し,沙耶は学園に眠る秘宝を手に入れました.この生物兵器をもってこの虚構世界を自ら去ろうとする沙耶に対し,恭介はタイムマシーンを彼女に与えます.過去で目覚めた沙耶は幼少の理樹と再会し,学園で理樹に手を引かれ青春を駆け抜ける思い出を手に入れます.しかしながら,それはおそらく恭介が見せる虚構世界の夢なのでしょう.それでも,沙耶はその輝きを胸に抱き,暖かい春の日差しを浴びながら安らかな笑みを浮かべて深い眠りにつくことが出来ました.

  • 沙耶

    どことなく遠坂凛(『Fate/ stay night』)を思い起こさせるキャラクターです.

  • 射撃ミニゲームを含む探索

    リプレイカウントを30以上数えるスクレボENDについては,特筆すべきイベントもCGもなく,これのために頑張るほどでもないように思います.

  • Saya's Song

    歌詞中にある「春が終わる」とは,恭介たちの虚構世界の終わりを示します.それに伴い沙耶の見る夢も終焉を迎えます.

  • 初夏

    沙耶が土砂崩れに遭ったのが冬なのに対して,修学旅行でバス事故が起こったのは(おそらく)6月20日です.これらの時期(および場所を)同一にして,理樹たちが偶然に沙耶までも助けるという素直な構成にしなかったのは何故でしょうか.なお,地下迷宮を構築するなど虚構世界に「権限」を持てたことから,あやは病院等で昏睡状態にあると思われます.

  • 虚構世界

    両親が健在である頃の理樹とかつて遊んでいたことが,この虚構世界と共鳴する要因となっているのでしょうか.

  • 沙耶

    『学園革命スクレボ』を愛読しており,登場人物であるスパイの沙耶に憧れていた様です.恭介も大好きな漫画であることも一因となっているのでしょうか.

  • 青春を駆け抜ける

    鈴の立場に成り代わったのではなく,初恋相手の理樹および虚構世界の中核を成す彼ら3名が導いていると考えたいです.

  • 安らかな笑み

    もしかすると,白い雪(虚構世界)が溶けて降り注ぐ暖かな日差しは,ハッピーエンドの隠喩なのかもしれません.このあと現実世界で目覚めるというエピローグを想像したいですね.

  • 深い眠り

    世界に干渉するだけならば生死を問わないと仮定すると,土砂崩れ現場に残っていたあやの霊魂が虚構世界に紛れ込み,思い出を得て天に召されたという解釈も可能です.


3.1. 心にとどめておきたい言葉

泣いた後,笑えるようじゃなきゃ,嘘でしょう?
笹瀬川 佐々美 / 佐々美シナリオ
葉留佳「自分が好きになるということが,価値があるとでも言っているみたい」
理樹「それ以外に好きという言葉に何の意味があるのさ」
三枝 葉留佳,直枝 理樹 / 葉留佳シナリオ

3.2. 関連項目

  1. 外部記事

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Last updated: 2014-05-03
First created: 2014-04-26