『遥かに仰ぎ、麗しの』感想

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ジャンル ADV
発売日 2006/11/24
遥かに仰ぎ麗しの
評価点
76 / 100
最大瞬間風速 梓乃(85/100)
総プレイ時間 51.1時間
主人公 8/10
お気に入り 風祭 みやび
ユーザビリティ 7/10 7/10
グラフィック 8/10 8/10
ムービー 7/10 7/10
主題歌 8/10 8/10
BGM 8/10 8/10
ストーリー 7/10 7/10
演出 8/10 8/10
感動 7/10 7/10
読後感 7/10 7/10

(評価点や作品に望むこと等については「レビューポリシー」をご参照ください。)


0. まずは一言

好きになることと愛することを描いた、成長と純愛の物語。果てしなく遠い夢や崇高な理想でも、諦めなければ叶う時が来るのかもしれません。


Attention!!

この感想はゲームをクリアした人に向けて書かれています。
まだゲームをクリアしていない人が読むと、作品の面白さを損なうことがありますので、ご注意ください。

1. 作品全体について(ネタバレ小)

1.1. 背景設定が考えられた学園モノ

世間から忘れられた僻地に建つ(いわゆる)お嬢様学校を舞台に、1年という長い期間を使って少女との触れ合いを描きます。物語は大きく2つに分かれ、本校系ルートでは心温まる少女の恋を、分校系ルートではコメディを挟みつつ企業グループのいざこざを、それぞれ軸に描いています。どちらも、魅力あるヒロイン達との掛け合いは楽しめますが、伏線の鮮やかな回収劇を期待している読者にとっては少し退屈に感じる部分もあると思います。

物語は2人シナリオライターによって書かれていますが、双方の担当は本校系および分校系とはっきり分けられており、それぞれの校風は描き分けられ(結果的に)プラスだったと思います。

1.2. 主人公が2人いるかのような

しかしながら、主人公についての複数ライター制の弊害は無視できません。ルートによって主人公のトラウマ設定ならびに性格が大きく異なることは非常に惜しく感じました。どちらも良い主人公だとは思いますが、本校系の完璧超人タイプに対し、分校系の学生気分の抜けない新人教師では同一人物には到底思えません。素人目には主人公を2人にした方が上手くいきそうなのですが、いかがなのでしょうか。

  • 同一人物

    光の当て方(その人のいる環境)で見え方が変わる限度を超えていると思います。

1.3. グラフィック、サウンドともに好き

柔らかさをもった立ち絵はどれも可愛く、豊富な表情変化の中でも特に顔を赤らめたときが良かったです。背景も良く描けているとは思うのですが、30万円の湯飲みを使用している割には職員室が安っぽく、また芝生のグラウンドでキャンプファイヤーを行うなど違和感を覚える場面が少なくなかったです。

ヴォーカル曲の中では「風のRhythm」が、優雅な曲調の中に、これから始まる物語への期待と学院に通う少女達の若干の諦念を織り交ぜた、素晴らしいオープニング曲だと思います。BGMではヴァイオリンやピアノなどを用いた曲が多く、タイトル画面の「凰華」が流れる時点でまず感動します。他にも「一人振り向いて」「ゆりかご」「ともしびのうた」などが好きでした。

  • 違和感を覚える場面

    立ち絵およびイベント絵ともにテキストとの不一致がいくらか見られました。

  • ヴォーカル曲

    ちなみに、グランドエンディングテーマである「学院歌 斉唱」は、同一旋律ではなく副旋律(ハモり)が含まれるため、一般に斉唱とは言わないと思われます。

1.4. 立ち絵不足を感じるのは、それだけ愛されるキャラクターだということで

セリフの発言者表示の切り替えや、通販番組の音声、ページをめくる音が印象に残るSEなど、演出面でかなり気を遣っているものと思います。

一方で、魅力にあふれたサブキャラクター達に立ち絵がないことが勿体なく感じました。特に、分校系ルートは彼らの支えが大きな要素となっているので、差分なしでも良いから用意するべきでした。全員は無理だとしても、三橋香奈、結城ちとせ、高松千鳥&鶫あたりは、立ち絵を用意しても良かったのではないかと思います。


2. 個別シナリオやヒロインについて-分校系ルート

好きになること、少女たちに惹かれる想い

学生気分がまだ抜けきらない主人公・滝沢司は、それこそ友達のように学生と共同生活を送ります。正直なところ、一般的な共学校の高校生主人公とそれほど違いは見られません。そんな主人公が魅力的なヒロインを前にして、早々に女の子として見てしまうのは分からなくもないです。しかしながら、気持ちを誤魔化そうとする描写はあるものの、簡単に一線を越えてしまうことにあまり良い印象を抱くことができません。ヒロインの問題解決も、主人公は切っ掛けこそ与えますが、実効的な部分はヒロインやサブキャラクターに頼っていました。ただ、一言弁護するなら、部外者が簡単に裁けることではないということでしょうか。

光の当て方で変わる世界

分校系シナリオは、全体的に叙事的なイメージが強い物語です。お嬢様としての背景すなわち企業グループ内外の問題に重点を置いています。企業買収や旧家の暗部など、日常に埋め込んだ伏線や謎を解き明かしていくミステリー的展開を求める読者は、こちらの方がより楽しめるかもしれません。栖香、美綺、邑那の順にプレイすることで立場や情報量による見え方の違いを楽しむことが出来るでしょう。

  • 友達のように

    豊富なサブキャラたちによる分校の雰囲気作りがとてもいいですね。コメディ色も強く、本校系とは少し違った一般的な女子校として書き分けられています。

  • 早々に女の子として見てしまう

    わざと女の子として見させるような環境や規則(顔立ちの良い若い男性教師ばかり、男性教師優位の外出日、学生寮での同居)、司の前任者の話題により、ややこしい家庭事情を持った娘を結婚させて処分するための隔離施設としか思えませんでした。

  • 簡単に一線を越えてしまう

    愛される恐怖については、統一的な設定を持たせて欲しかったです。栖香や邑那に「捨てられた」ときの反応は、とんでもないことになりそうですけれども。

  • ヒロインやサブキャラクターに頼って

    ヒロインの問題を実効的に解決するためには、企業グループ同士の争いのそのものに手を出す必要があります。司にはもともと立ち向かえることではないのは明らかなのですが、栖香と美綺の問題が別ルートであっさり解決してしまうことが主人公不要論に拍車をかけてしまっています。

  • 栖香、美綺、邑那の順にプレイ

    そもそも、ルート固定していないことがおかしく感じるレベルです。

2.1. 仁礼 栖香(7/10)/ 心の余裕を持てば、あるいは……。

(C) Willplus
(C) Willplus

両親に捨てられたと思い込んでいた栖香。栖香ルートは物語の面白さよりも、絶妙なバランスの上に成り立つ可愛さによって採算が取れていると思います。栖香の意地の張り方や視野の狭さは、時として物憂い気分にさせられます。その一方で、追い込まれた栖香が、もっともらしい言い訳を赤く頬を染めながら早口でまくし立てる仕草には可愛さを感じました。

栖香は「寮の標準時」と呼ばれるほどに生真面目であり、家名に対して強い矜持を持っています。表面的には堅物の優等生タイプのように思われますが、実際は誰よりも周りが見えず、自分の事さえも見えなくなってしまう精神的にとても幼い少女でした。相手の気持ちを読み取る能力の低い栖香は、手を差伸べてくれる姉や同級生の手を取ることも出来ず、孤立していました。シナリオの中核である家族愛のすれ違いも、全て思い込んだ栖香の自暴自棄によって悪化の一途をたどっていきます。栖香という人物を見ていると、こういう成り行きも十分起こりうるとは思うのですが、やはり物足りなく感じます。

ところで栖香ルートは、えっちシーン総数20に対し半分近くの8枠を埋めています。1番真面目そうな委員長キャラクターが徐々に肉欲に溺れ、ついには「尻穴奴隷にしてください」などと宣うとは全く予想していませんでした。第11話以降はキスやえっちシーンばかりとなり、正直辟易する場面もありました。しかしながら、処女性に両親との縁(よすが)を感じていることや、主人公に身体を求められることを存在価値(レゾンデトール)としている事もあり、一概に否定できません。さらに、司がここまで栖香に依存していたからこそ、すみすみに心を奪われて司のトラウマが解消し得たとも言えます。桜屋敷で栖香に好きと言えたのも、かの奴隷発言があったからこそなのかもしれません。

なお、あくまでも栖香ルートは次のシナリオへの伏線の趣が強いです。栖香に対する(立場、考え方、性格などの)アンチテーゼとしての美綺ルートが描かれ、邑那や燕玲および渉については重大なミスリードとなっていました。

  • 意地の張り方や視野の狭さ

    分校へ転院する切っ掛けとなった強姦未遂事件の影響もあるのでしょうが、このレベルだと栖香の本質によるもののような気がします。美綺ルートで基地探検に熱中して定期試験を忘れる位なら可愛いのですけどね。

  • 可愛さ

    声の演技との相乗効果。デウスガーデンへの外出や、美綺とのおかず交換などのエピソードが好きです。

  • 強い矜持

    このような性格に育ったのは、華族の流れを汲む仁礼家の躾が厳しかったと言うことでしょうか。

  • 堅物

    栖香の台詞は、「今晩わ」と「今晩は」の使い分けに留まらず、一般にひらがなで表記する副詞まで漢字表記となっていました。分校系のテキストは、CVにある句読点が省略されることが多くもともと読みにくい上に、この漢字多用によってさらに読みにくくなってしまいました。

  • 半分近く

    姉の美綺も6枠を埋めるというエロ姉妹。こちらは、司の「好き」という気持ちを信じられずに身体で繋ぎ止めようとするお話。

  • 尻穴奴隷

    もともとアホな子ですが、こちらの方面で発揮されるとは思っていませんでした。

  • 司のトラウマ

    そもそも、分校系シナリオでは司のトラウマをあまり重要視していません。好きと言えた時点で解消していると素直に思っておいた方が良いでしょう。……ただ、もしトラウマが発症していたとしたら、この2人では恐らく乗り越えられないでしょうね。

  • 邑那

    栖香の自分勝手な言い分は、真実の的を射ていたことが後々明らかになります。

2.2. 相沢 美綺(7/10)/ お姉ちゃんと呼ばれたくて

(C) Willplus
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妹の栖香と仲良くなりなかった美綺。同級生に大らか(無神経)な性格と言われながらも、その実、美綺は誰よりもみんなの事を気にかけていました。「日本の正しいお姉ちゃんは、妹がいやがることはしないのだ」という言葉にも顕われる、みさきちの暖かみある懐の深さに惹かれました。司のトラウマに気付いた美綺は司を優しく抱きしめ、心の傷を癒やしました。

重要場面の1つである桜屋敷買収騒動は、娘想いである美綺パパの真意が思いのほかスムーズに明らかになります。すでにこの話題は栖香ルートで描いているので、これくらい簡素でもよいと思います。なお、栖香ルートの裏としては、「名家とは、時間が経った成り上がり」であると、美綺が正論で栖香を窘めるシーンに注目したいです。美綺が栖香よりもどれだけの事が見えているかが対比され、相沢不動産による仁礼グループの裏切りも反対側から見ると大分印象が変わります。

栖香が美綺をお姉様と慕うようになった後は、物語の舞台は学内の冒険へ移ります。学院七不思議探索の流れに続き要塞跡を調べることで、凰華女学院の過去や風祭家の暗部に迫っていくのですがどうも盛り上がりに欠けます。やっと巨大な陰謀の影が見えてきたと思ったら、正体は風祭家が戦禍から避難するための施設でしたというのは、権力者の私利私欲が明らかになるとはいえ期待外れでした。

美綺ルートは交友関係の広さからかサブキャラクターの登場も多く、分校系学生をはじめとしたサブキャラクター達によって楽しい雰囲気が形成されていました。特に、みさきちに振り回され続ける親友の奏は、言葉を繰り返す口癖と両手を胸の前に構える立ち絵がとってもとっても可愛かったです。

  • 司のトラウマに気付いた

    親友や共犯者としての期間が長かったためか美綺に溺れない司は、無意識のうちにトラウマを解消することはなかったようです。それにしても、このルートでは宿直室で一緒に密輸したスナック菓子を食べながらゲームとか、学生気分過ぎます。

  • 美綺

    庶民出身の美綺は、他の旧家出身のヒロインとは違い一般的な名字ですね。

  • 盛り上がり

    探検よりも坂水先生との対決でも描いた方が盛り上がったのでは……。

  • サブキャラクター達

    学生以外ではタマデルリンガ人のワンボが最高ですね。

  • 親友の奏

    「みさきちぃ」と叫ぶ奏とその声が大好き。寮を選択するときから既に暁先生のことが大好きだとアピールしているので、奏のルートはむしろ望みません。

2.3. 榛葉 邑那(8/10)/ 光源の位置で全てがひっくり返る

(C) Willplus
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祖父に囲い者とされていた邑那。家庭教師として出会った燕玲は邑那に手を差伸べ、2人は2人だけの王国を作るのでした。……いえ、邑那の容姿や性格にあまり興味を抱くことが出来なかったので、美少女ゲームとしてはそれほど楽しめなかったのですよ。そのため、司が邑那を好きになり、邑那が隠していた裏の姿を知った上でも好きだと言える心情(プロセス)にいまいち共感できませんでした。とは言いつつも、分校の影であるゲスト問題を描いた邑那ルートはいくらか起伏もあり、分校系ルートの中では1番面白いお話だったと思います。

視点の重ね合わせによって真実が見えてくるお話はとても好みです。別の角度(分校系3ルート)から当たった光によって浮かび上がってきた実像はよくできていて、終盤でこれまでのイメージを一気にひっくり返してきます。冷酷な燕玲の傀儡に見えていた邑那は心で深く結ばれたパートナーであり、妹を慮るだけ線が細い渉は陽動グループを破壊するために邑那を襲撃しました。最後に、狂った祖父・源八郎の言動さえ半ば狂言だったとする辺りは見事だったと思いました。

実際のところ、このルートで司が活躍できる余地は本来的にはなく、むしろいない方が暁さんの活躍により陽動グループの乗っ取りはスムーズに行われたことでしょう。ですが、司がいたことで2人は祖父と孫娘の関係に戻ることが出来ました。やはり、ヒロインの心を救うのは主人公の役割ですよね。

  • 邑那の容姿

    司よりも年上であることは第6話の時点で察しが付くものですが、それを理由に嫌っていたわけではありません。ただ、可愛さを感じなかったのです。

  • 裏の姿を知った上でも好き

    同情以上のものを感じないのですよ。加えて、邑那が司に惹かれる理由もいまいち分かりません。好意を示してくれた男性が今までいなかったこと、そしてその男性がとても無邪気な子供であったこと。この2点くらいでしょうか。

  • 冷酷な燕玲

    デウスガーデンの遣り取りで、有能と評される燕玲がこんな簡単に罠に掛かるとは思っていなかったですけど、やはり裏で悪役を演じる打ち合わせがあったのですね。なお、その後のえっちシーンで、祖父が危篤であると燕玲から聞いて本番に励む司の考え方は理解できません。

  • 暁さん

    風祭家の工作員でありながら陽動の総帥と個人的な繋がりがあるという。すまじきものは宮仕え、ですか。


3. 個別シナリオやヒロインについて-本校系

素敵な主人公の心に潜む影

教師としての矜持をしっかりと持った誠実な主人公・滝沢司は、就職浪人をしかけた新人教師とは思えないほどの活躍を本校系シナリオで繰り広げます。特に、理事長秘書となり様々な問題を解決していくみやびルートは、最も爽快感を味わえるお話でしょう。関わった他人を見捨てることが出来ない司は、表向きは滝沢の両親の影響を受けた心からの善人に思えますが、実際は実の両親への憎悪と復讐の念に病む青年でした。教師という職は、両親とは違うことを証明する手段でもありました。

愛すること、少女たちを救いたいという気持ち

本校系シナリオは、全体として叙情的なイメージが強い物語です。企業グループの問題よりも、巨大で豪華な孤児院に囚われたヒロインの心を如何に救うか、そして主人公が如何に救われるかに重点を置いています。ヒロインが主人公を好きになる過程がヒロインの視点から丁寧に描かれ、彼女たちの心情がその魅力と合わせてとても良く伝わってきました。

なお、本校系における視点者の書き方については少し疑問があります。視点は限りなく三人称に近い一人称であり、視点者が気付いていなかったり聞こえなかったりしたことそのものを回想のような形式で地の文に書いています。ビジュアルノベルであるならともかく、アドヴェンチャーゲームとしてはかなり独特な表現方法だと思います。

結末を最後まで読みたい

ヒロインの実家から掛かる大きな力は、(分校系と同じく)本質的に司が対処できる程度を越えています。そのため、みやびルートや殿子ルートでは問題の先送りや、都合の良さが目立つ解決法が取られてしまいます。やはり、恋人関係を今後も続けていられる道筋を、主人公やヒロイン自らが拓いていくお話を読みたいものです。

  • 教師としての矜持

    卒業まで手を出さないで欲しいというのは、この種のジャンルのゲームにおいて却って不自然な状態かもしれませんが、望んでしまうのは致し方ないこと。

  • 就職浪人

    司の就職先がなかなか決まらなかった事はともかく、何故お嬢様学校などに就職出来たのかをもっと説明して欲しかったと思います。

  • 爽快感

    ただ、全て成功してしまう辺りに都合の良さを感じてしまうと、急に冷めてしまうかもしれません。

  • 滝沢の両親

    養父母の愛を確信しているにもかかわらず、恋人の愛を信じられないというのは論理がかみ合っていないように思われます。何度撥ね除けても自分の傍にいてくれる存在の愛ならば信じられる、ということでしょうか。

  • 憎悪と復讐の念

    実の両親と自分は違うという自己暗示も、些細な切っ掛けで揺らぐときが来るようです。それがトラウマの本質であり、実の子を捨てるような両親から生まれた自分が最後まで愛され続けることに不安になるのでしょう。

  • 巨大で豪華な孤児院

    みやびや殿子の両親が敵役として描かれるのも、司の境遇と重ねるのと同時に、実の両親に対する憎悪の念を再び蘇らせる目的もあるのでしょう。それ故に梓乃ルートにおいて、関係が良好のはずである両親を登場させるわけにはいかないのでしょうか。

  • ヒロインの視点から

    この視点の切り替えは時々誰の視点にあるか分からなくなるときがあるので、メッセージウィンドウに何か変化を加えるなど、工夫が必要だったと思います。

3.1. 風祭 みやび(8/10)/ 幸せの連鎖

(C) Willplus
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優秀な兄姉を持ったことで、両親に期待されることのなかったみやび。司の手を借りて凰華女学院分校に希望をもたらしていったみやびは、心の余裕の無さからくる独善的な態度を改め、学院の皆に好かれるようになります。しばらくの葛藤の後に司を素直に認めたみやびは、司に次第に惹かれていくにつれて急激に可愛くなっていきました。

みやびルートでは、みやびが司の心を必死に繋ぎ止めようとする描写がとても良かったです。「理事長と呼べ」と言っていたみやびが、風祭でも理事長でもないみやびを見て欲しいと何度も訴えます。みやび視点による、元気で甘えん坊な可愛らしさと不安に怯えたしおらしさの心理描写は見事だったと思います。その萌え(可愛らしさ)は「みやびちゃんぷりちー」なんて言葉では表してはいけないものでした。

なお、みやびルートは実質的にリーダさんのお話でもあります。風祭家に居場所のないみやびを助けたかったリーダさんにとって、司は初めて出会った信頼できる人物でした。リーダさんの視点を通じて、みやびをどれだけ想っているか表現されていました。みやびと由の婚約において司の口実を見抜き、司の「愛される恐怖」に行き着いたのもリーダさんでした。一方で、淡い恋心を抱いたようなリーダさんを可愛く感じるエピソードも数多く用意されていて良かったです。

さて、ルートは以下の言葉で締めくくられます。

これは僕らが大事なことに気付いたと言うだけの、
ごくごく当たり前の物語だ。
(滝沢司 / Epilogue『そして、汝等此処より入りたる者』)

愛するとは、独りよがりな行為(好意)ではなく、互いを理解し双方の幸せを望むことなのだそうです。そんな綺麗な言葉でエピローグですが、風祭家とのその後を描かなかったことはとても残念でなりません。最終エピローグで少しだけ描かれてはいるものの「風祭の玉石」と呼ばれるになるまでの過程をもっと読みたかったです。幸せの連鎖を描いたみやびルート。滝沢夫妻に救われた司がみやびたちを救い、みやびたちは(両親に褒められることよりも)学院生全員を救うことを決意する。その理想こそ遥かに仰ぎ、麗しの高みなのでしょうか。

  • 繋ぎ止めようとする描写

    学園祭やバレンタインに限らず日常そのものが良かったです。(実際のところ、司のトラウマを考えると、繋ぎ止めようとする行為は逆効果になってしまう。)

  • みやびを見て欲しい

    理事長の手助けをするために秘書となった司に対し、仕事上ではない繋がりを確認したくて名前で呼ばせようとするみやび。リーダから司が秘書となった理由を聞き出したときのみやびの心情とかいいですよね。

  • 可愛らしさ

    北都南さんが演じる幼い少女は、やはり最高だと思いますね。

  • 居場所

    孤立した2人の関係については、分校系の邑那ルートと対比されます。邑那と燕玲は実家への復讐を選びましたが、みやび(とリーダ)は両親に認めて貰うために頑張りました。

  • 信頼できる人物

    その意味においては、2人に真剣に向き合ってくれれば誰でも良かったのかもしれません。ヒロインの救い手が主人公に限られないのはとても良いことです。

  • 司の口実

    三嶋を立場やお金に関係なく助けようとした一方で、家格を違いに婚約を後押しする矛盾からの疑問でした。……鏡花ルートの分岐が何故ないのでしょうかね。

  • エピソード

    指輪以降も良いのですが、塩を撒くシーンや「月が綺麗ですね」の告白(?)も良かったです。司が秘書になった直後(契約書をもって詰め寄るリーダさん)もいいですね。

  • 綺麗な言葉

    だからこそ「在りたいように在る、ということはとても難しい」となる。

  • 風祭家とのその後

    由との婚約が破談となったことが明らかになったとき、どのようにみやびは理事長を続けていくのか。司はどのような策に出たのか。せめてそれくらいは読みたいです。

3.2. 鷹月 殿子(8/10)/ 自ら作った柵を乗り越えて

(C) Willplus
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自由に憧れていた殿子。頭の回転もよく、父娘や親友の関係を通じて素直に真っ直ぐ慕ってくれる殿子がとても可愛かったです。この優しさが司の抱える心の傷も知らずの内に癒やしていったようです。

良く言えば大人びている殿子ですが、自由への諦念からかどこか遠い目をしているようにも感じられました。このような性格に育ったのも両親に甘えることが出来なかったからなのでしょう。その原因となった鷹月家の問題は、司には到底解決出来るものではありませんでしたが、司は殿子を守ろうとし心の拠所となっていきました。

自分の気持ちを理解してくれた司に興味を持った殿子は、司の戦闘機作りを通して仲を深めていきます。美術週間や海水浴の続きがこれでいいのかと題材に疑問を感じなくもないですが、空を飛ぶイメージのリンクもあり、付随する楽しいイベントにも満足しました。

完成した飛行機は一端飛びかけたものの、予定調和の如くやはり海に墜落してしまいます。必死に助けに向かった殿子でしたが、司が自分の知らぬ間に泳げるようになっていたことで、殿子は限界を自ら無意識のうちに定めてしまっていたことに再び気が付きます。

困難に際して諦めるから自由にならない。
困難に際してなお、
揺るがぬ意思と強い行動力を示し続ける。
自由というのはそのように顕されるものだったのだ。
(鷹月殿子 / 第11話『大空を往く者』)

飛行機を飛ばすことを諦めない司のように、いつか殿子も空を自由に飛べる日が来るかもしれない。そんな希望が残るエンディングでした。

ところが、エピローグにおいて、鷹月家との対決(和解)をあっさりと片付けてしまったのはとても勿体なく思いました。これまで特に努力してきたことでもないのに、殿子の数学者としての才能が明らかになり解決では、やはり寂しさを感じます。さらに、義務を果たした上での自由を諭し、何事にも諦めない意志の力の大切さを示してきた殿子ルート自体をも否定しかねません。

  • 素直

    いわゆる「クーデレ」という状態に近いです。冷静で素直な少女が少しだけ照れながら好意を示してくれると、とても可愛く思います。

  • 可愛かった

    初えっち後のピロートークもわりと気に入っています。満天に輝く星の数くらい愛していると司に言われて、少ないと答える殿子の呟きなんか良い感じです。

  • 心の傷

    殿子ルートでは司のトラウマはほとんど発症しないまま終わります。物語の早い内(第7話)に司が自覚してしまったということもあるのですが、父娘あるいは親友として愛し合った期間も長く、終盤で殿子と会えなかった期間も殿子と過ごした想い出の場所に囲まれていたことが原因としてあげられるでしょう。要するに、殿子への想いがトラウマに勝ったということにしておきたいと思います。

  • 鷹月家の問題

    名家の持つ伝統の価値については、分校系の栖香ルートと対比されます。親の愛し方や家の存続のこだわり方は真逆になっています。

  • イメージのリンク

    自由を手に入れること。また、同時にそのために何かを継続することとその楽しさと。

  • イベント

    探検道具を買いに行ったついでに帽子を買ったときの殿子や、理事長を仲間に引き入れるときの身体測定データによる脅迫(?)など。

  • 飛びかけた

    絶対に飛ばないと思っていた飛行機が飛びかけたときには、感動で涙目になってしまいました。

  • 希望

    内容はともかく曲がりなりにも譲歩を見せた鷹月夫妻に対して、殿子は一切の歩み寄りを見せていませんでした。その意味では、この学院で自由に生きることは逃避でしかないと言われても仕方ないという気持ちもあります。

  • 片付けてしまった

    司に支えることが出来るのは荷物の重さで倒れそうな殿子だけです。本来、殿子の問題を解決する能力を司は持ち合わせていません。鷹月家1000年の歴史に対抗するために風祭や八乙女の力を借りたというなら、そこでの司の役割をもっと描くべきです。あるいは、手を借りようとしている段階で留めておく方が綺麗な余韻が残ったかもしれません。

3.3. 八乙女 梓乃(8/10)/ 互いの距離は3m

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中学の頃に受けたいじめによって対人恐怖症となってしまった梓乃。過去を克服し、司に何とか振り向いてもらおうとする梓乃がとても可愛かったです。実のところ、怯えなどによりスムーズな会話が成立しない登場人物には強い苦手意識があり、梓乃ルートにはほとんど期待していませんでした。結果として梓乃への感情は反転し、思いがけないところで感動することが出来ました。

大人しい(はずの)梓乃が殿ちゃんを取られまいとと様々な行動を起こしていく姿はとても楽しめました。梓乃の気持ちが憎悪から恋慕に反転するまでの一連の心の動きが、大変面白かったです。悪戯が尽く逆効果となったり本来の目的を否定して司を庇ったりなど、誰も知らないところで梓乃ただ1人が葛藤している姿を、梓乃の視点から描いたのは大正解だったと思います。幼稚な妨害工作も徐々に過激になり、司を性犯罪者に仕立て上げようとする辺りまで来ると、(おそらく上手くいかないと思ってはいても)少しハラハラしてきて物語の続きがとても気になりました。惜しむらくは、海水浴での強姦未遂事件で、司を庇った人物が1人もいなかったことでしょう。

梓乃との仲を深める物語は司の傷に話題を移します。梓乃に好かれていると司が自覚する頃から、2人の立場は徐々に反転していきます。梓乃は自らの恐怖を必死に押さえ込み、司の愛される恐怖を優しく包み込みました。その後の初えっちで、司を救済した次の一言が、梓乃ルートで最も印象に残りました。

だってこれでやっとあなたに、
血の繋がった家族を作ってあげられるから………
(八乙女梓乃 / 第12話『八乙女梓乃のやり方』)

本来持っていた梓乃の優しさを表した心に刺さる一言だったと思います。ここで、あえて疑問点を挙げるならば、学院の寒い中庭でそのまま行為に至ったことは不自然に感じました。梓乃が平静さを失う理由は確かにありましたが、その焦りだけでは納得しがたいところでしょう。

なお、エピローグにて司が八乙女家を継ぐ立場になることに気付かないのは、お約束かもしれませんが、それが司の良いところだと思います。

  • 殿ちゃんを取られまいと

    司よりも年上であることは第6話の時点で察しが付くものですが、それを理由に嫌っていたわけではありません。ただ、可愛さを感じなかったのです。

  • 梓乃の気持ち

    加えて、徐々にクラスメイトと仲良くなっていくといった、梓乃本人にも思いがけない成長もありました。殿子の傍にずっといた梓乃の行動要因は徐々に司にシフトしていきます。

  • 恋慕

    肝試し、強姦未遂などの吊り橋効果が大きいところもありますが、司の偽善的優しさに心を動かされているので特に不満はないです。

  • 上手くいかない

    梓乃が性的暴行を受けたと宣言してみんなが信じたとしても、殿子あたりが実は現場を見ていて、後で梓乃が皆の前で謝罪するような物語を想定していました。

  • 強姦未遂事件

    梓乃が坂水先生に襲われているときは「司、早く来てー」と、分かっていても叫んでしまいますよね。

  • 1人もいなかった

    仲間の女の子が危機に陥った(と思い込んだ)時における少女たちの連帯感はとても強いものです。とはいえ、梓乃を保護して一緒に戻ってきた司に対し、全員が性的暴行を疑うのは不自然です。司と梓乃の2人の視点から見えていた司への信頼は上辺だけのものだったのかと思うと、少し悲しくなります。冷静に鏡花や美綺は反論してくれるものと思っていました。

    ちなみに、ダンテの咬み跡からすぐに坂水先生が犯人と特定されるものだと、このときは思っていました。早急に危機管理体制を見直してください。

  • 不自然

    一方で、身体に刻み込まれた防衛反応に負けないために、両手両足をロープで縛ることにはあまり違和感を覚えません。(……あれ、もしかして手遅れなのか。)

  • 理由

    2度目の強姦未遂で死にかけた直後に、司の心の壁を最後まで取り払うことに必死になれる梓乃は強い。祖父母が連れ戻しに来る前夜の決意でした。

  • 気付かない

    本校系、その中でも特に梓乃のルートは財閥や企業グループのことが話題に登らないため、以外と忘れてしまうところだと思います。この主人公なら、案外うまくグループトップを演じ続けられるかもしれません。


4. 遥かに仰ぎ、麗しの

「風祭の玉石」と呼ばれるまでに至る細く長い道を、凰華女学院分校が一歩ずつ歩み出していることが窺える最終話。6人のストーリーを総括するエピローグとしては物足りなさを感じますが、学院生全員を救うと決意したみやびルート後としては妥当な終幕とも言えます。学院歌で詠われるように、果てしなく遠い夢や崇高な理想でも諦めなければ叶う時が来るのかもしれません。

  • 学院歌

    遥かに仰ぎ 麗しの 天の浮き橋 君みずや(凰華女学院 学院歌)



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Last updated: 2013-03-30
First created: 2013-03-16