『Scarlett ~スカーレット~』感想

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タイトル Scarlett ~スカーレット~外部サイトへリンクします。
ジャンル ADV
発売日 2006/05/26
Scarlett ~スカーレット~
評価点
78 / 100
最大瞬間風速 -
総プレイ時間 14.1時間
主人公 7/10
お気に入り 別当 しずか
ユーザビリティ 9/10 9/10
グラフィック 7/10 7/10
ムービー -
主題歌 7/10 7/10
BGM 7/10 7/10
ストーリー 8/10 8/10
演出 7/10 7/10
感動 7/10 7/10
読後感 8/10 8/10

(評価点や作品に望むこと等については「レビューポリシー」をご参照ください。)


0. まずは一言

ねこねこソフトが最終作として送りだした普通の「日常と非日常」の物語.大切にしたい普通,ありますか?


Attention!!

この感想はゲームをクリアした人に向けて書かれています。
まだゲームをクリアしていない人が読むと、作品の面白さを損なうことがありますので、ご注意ください。

1. 作品全体について(ネタバレ小)

1.1. 非日常を日常とする世界観

日常と非日常

最終作のテーマは「日常と非日常」.ねこねこソフトがこれまでこだわってきた「日常」を,諜報戦(非日常)を日常とする者の立場から描きます.意外なことに,この非日常にはスパイ活動からイメージするような緊張感に満ちた展開はあまりありません.「高級諜報家」という設定を持ち出して非日常を淡々とした日常にしてしまうあたり,このブランドの並々ならぬ想いを感じます.

高級諜報家

本作では国家の域を超えて絶大な権力を有する高級諜報家なるものを独自に設定しています.その力はアメリカ空軍機を拝借することも出来れば,欧州議会で望む議案を通すことも出来るほど大きいものです.こういった超法規的な一族が20存在し,彼らに統治される世界というのは,なかなか無理があるように思えます.しかしながら,諜報活動の実態など当然よく知る由もないわけですし,楽しめさえなければこのような壮大な設定を持ち込んでも良いと思います.実際のところ,大きな矛盾も見当たらないですし,絶対的に優位な立場から敵対する者を凄まじい権力でテンポ良く撥ね除けていく主人公側には爽快感を感じます.

惜しむらくは,高級諜報家の成り立ちや自身の生命の安全性についての説明が,かなり終盤近くになるまで明確にないことでしょうか.この設定をどこまで受け入れられるかを左右する部分ですので,「不干渉のルール」についてもっと序盤で解説しても良かったと思います.

1.2. 主人公は九郎だけでもいいです

別当・和泉九郎・スカーレット

非日常側の主人公である九郎は何処までも非常識な存在です,学識や戦闘術を広く習得しており,何と言っても社交界でのコネクションに基づいた高級諜報家の絶大な権力を有しています.これほど完璧な主人公も珍しいと思います.ただ,大きな弱点を1つあげれば,本人が権力に護られ過ぎて一般人の介入によるリスクを軽視していることでしょうか.

大野 明人

その一方,日常側の主人公である明人は,どうも魅力不足でした.特にプロローグや第1編おいては常におどおどしており,周囲のことを考えず何かと質問ばかりして印象が良くありませんでした.非日常側への憧れの強さと,境界線を踏み越えた勇気は認めますが,しずかと釣り合うようには到底思えません.

そんな彼も第2編以降は心身共にしっかりしたようですが,そのまま活躍の場もほとんどないまま終幕を迎えてしまいました.それどころか,第4編での失態が示すように,4年間もいた非日常でのルールをまったく理解していませんでした.こうなると,前述の度胸でさえ周囲への迷惑を一切顧みない向こう見ずでしかなかったと考えざるを得ません.九郎(別当家)の権力に護られていた明人は,所詮は高度な諜報員ごっこをしていただけでした.

  • 一般人の介入によるリスク

    銀行への侵入は明人の同行により失敗しかけましたし,シズカの父の捜索は美月の独断専行により彼らがクルーガー女史に殺されかけました.

  • 高度な諜報員ごっこ

    その疑いは第4編で九郎自身にも向けられます.彼はこの事件により高級諜報家のあり方について疑問を感じ始めます.

1.3. ややしんみりしたBGMがお気に入り

立ち絵とイベント絵を問わずとてもきれいなビジュアルだったと思います.登場人物はこれまでのブランドイメージが保たれており,素晴らしい発展だと思います.

音楽は登場人物の会話やビジュアルを自然に演出しており,「美少女ゲームアワード2006」にてBGM賞を受賞しただけのことはあると思います.「Rainy weather」「Feeling of strain」「scarlett 2006」など,ややしんみりする曲がやはり得意のようです.タイトル画面に戻った際にBGMがそのまま継続するようになっており,エピローグの余韻がほどよく残っていました.

1.4. 世界観に誘い込む辞書システム

システムインターフェイス系では辞書システムが良かったですね.この作品には軍事や諜報に関する話題が数多く登場します.あまり馴染みのないこれらの専門用語に簡潔な補足説明を加えることで,読者を上手く世界観に誘い込んでいます.たまに辞書内で皮肉や雑談を始めるので単に読んでいても楽しいです.

もう1つ良かったのがチャプター分けです.物語はすべて章(chapter)ごとに区切られ,次の章に進む前にあらすじまで表示される親切設計です.各編のシナリオをいつでも好きな場面から読み直すことが出来るため大変便利でした.

複数の主人公が登場することからか視点が頻繁に切り替わり,どちらの視点を先に読み進めるか選べる事も多々あります.しかし,1つの物事を両面から見たりするようなこともなく,あまり意味があるようには思えませんでした.

ねこねこソフトと言えば,過去作のアフターストーリーや(羽目を外しすぎた)他作のパロディでおなじみのクリア後のおまけです.最終作ということでいっぱい詰め込まれていました.

  • あらすじ

    章が解放された時点でSTARTから始めると未読でもあらすじが読めてしまい,そこの不備だけは気になりました.


2. 各編のストーリーとヒロインについて

一言で言えば,明人としずかが大切にしたい普通に辿り着くお話です.2世代かつ世界規模で進行するスケールの大きなストーリーに対して,テキストは行間を読む必要もないくらい広く浅く淡々と進んでしまいました.登場人物の内面や成長の過程をもっと描いていれば,さらに楽しめる作品になったと思います.

2.1. #00 境界 -border line-

日常と非日常の壁を越えたかった明人.学校を1年休学して日本中を旅したあげく米軍基地に侵入するとは,なかなか出来ることではありません.その行動力と運の強さによって偶然しずかと出会えた彼は,念願の非日常への切符を手に入れます.しずかも,境界線を越えてしまった明人に何気なく惹かれるところがあったようです.

  • しずか

    初めて名前が登場した時点で「生涯の伴侶」になる事が明かされていました.かなり珍しい演出ですよね.

2.2. #01 本物 -real-

九郎の生きる非日常 の世界に,本来は交差することのない日常を生きる明人 が飛び込んでいきます.ゲーデル教授 およびアメリアの親娘と超硬度暗号を巡るストーリーは,先の展開が気になり十分楽しめました.暗号の存在すら曖昧にしてしまうことで完全な暗号に仕立てるとは考えたものです.

日常と非日常の境界線を越えようとした明人に,九郎はベレッタによる死か小切手かどちらか選ぶように迫ります.非日常へ憧れていた明人は第3の選択肢を選びました.ここで,彼は日常を特に大切だとは感じていなかったようですが,決して嫌っていたわけでもありませんでした.ただの憧れではなく,死の危険に曝されてもなお非日常の世界に入りたい理由を明示できていればなお良かったと思います.

アメリア・ウィークス

(C) ねこねこソフト
(C) ねこねこソフト

ねこねこソフトといえば,必ず1人配置される「ぽんこつ」キャラクター.「ややぽんこつ(ぽんこつ子爵)」の称号を持つアメリアも,飛行機の座席で正座したり洗面台でシャワーを浴びたりなど,そのぽんこつ振りを見せつけてくれました.笑って許せる限界ギリギリぐらいを攻めてくるあたり流石です.そんな彼女も,ストーリーが進むとパスワードの解析や銀行のサーバーへのハッキングなどをこなし,天賦の才を発揮します.……あれ,ちっともぽんこつではないですね.

  • 非日常

    九郎の生きる退屈な非日常は特に危険もなく淡々と進み,明人にはまるでゲームのように映りました.

  • 明人

    ナセルによるアメリア誘拐未遂の目撃者である明人の名前も聞かず邪険に扱った割には連絡先を渡す九郎.予定が変わって登校していることを兄に伝えていないしずか.お話を続けるためとはいえどうも不自然です.

  • ゲーデル教授

    ゲーデルの不完全性定理(証明も反証も出来ない命題が存在することと,論理体系の無矛盾性をその論理体系において証明できないこと)で有名な数学者の名前を取ったのでしょうか.

2.3. #02 再来 -come again-

前編から2年後.(八郎氏の個人的な希望により)ミビア共和国での大統領選挙とEU利権を巡る駆引きが繰り広げられました.前編で敵だったナセルが実は九郎の味方をしているというミスリードには騙されましたし,最後に一気に手札を切って将軍を畳み掛ける場面も面白かったです.政情不安から解放されつつあるミビア国民には,より「平和的な日常」を歩める未来が待っているようです.

ところで,九郎が現大統領の暗殺を即断する場面には正直戸惑いました.彼はここまで諜報のプロとしては(おそらく)かなり甘い対応を取っており,その冷徹さとは噛み合いませんでした.また,八郎氏による大統領候補(叔父)の暗殺をあれほど恨んでいたニネットが,(彼の真意を理解したぐらいで)父親が殺される事をあっさり受け入れるのも不自然に感じました.

  • 個人的な希望

    あまりにも好き勝手なことをすると,世界は高級諜報家から彼らの権力を奪うのでしょう.何処まで許されるのかが気になります.

  • 騙されましたし

    九郎の独白(地の文)であたかも本気で裏をかかれたような表現をするのは,読者に対してアンフェアだと思います.

  • 甘い対応

    第4編で明人を犠牲に出来ない九郎が大統領の命を簡単に切り捨てるというのは整合性に欠けるように思います.

2.4. #03 縁 -blood-

時と場所を移し,物語は一見これまでとは関係のなさそうなお話に転じます.「いったい何が始まるんです?」と不安になりつつも,しずかにとてもよく似たエレナが登場したところで興味を惹かれました.この彼女のルーツを辿るお話の雰囲気には,どことなく『narcissu』を思い起こしますね.

このパートでは,大好きな人と過ごす「普通の日常」が最も大切であることと,幼いシズカの普通を願う姿が描かれました.これらはエンディングに向けての重要な布石となっています.また,キーとなる「丘の上のピクニック」を果たし,渡り鳥を眺める場面もとても感動的でした.

しかしながら,物語全体で見るといくらか疑問を感じる点もあります.それは,現在のしずかと明人の関係性にこのパートが与える影響があまり大きくないことです.しずかが初のヒトクローン成功体という唯一無二の存在であることは完全に隠蔽されているようで,特に各国の諜報員らに狙われることもありません.加えて,イリカから病気を受け継いだわけでもありません.ここまで物語の見せ場を避けるのは,構成上の不備というよりも勿体なさを感じます.

  • いったい何が始まるんです?

    このフレーズの元ネタは映画『コマンドー』(1985)が由来だそうです.

  • 『narcissu』

    悲壮感の抑え具合まで含めて似ています.

  • 「丘の上のピクニック」

    「サンドイッチと熱い紅茶、フルーツとお菓子を少しだけ入れて…」や「ごめん、じゃないよ、ありがとうだよ…」などのリフレインが良いですよね.

  • 物語全体で見ると

    第3編の雰囲気自体が他のパートと比べてそもそも異質なのですが,起承転結の「転」として面白い演出だと思います.

  • 完全に隠蔽

    どうやらご本人も知らないご様子.

  • 狙われることもありません

    別当家の名前に護られている可能性がないわけでもありません.

2.5. #04 日常 -normal life-

今まで常に主導権を握り続けていた九郎が初めて弱さを見せるのがこの第4編です.約束されてきた別当家の絶対的優勢も例外はあるのですね.彼はその甘さを同じ高級諜報家のマザランに付込まれてしまいました.これをきっかけに彼は非日常のルールについて疑問を抱き,また美月との関係について考え直します.

このパートはしずかが無人島セシブルまで明人を追いかけていく場面がとても感動的でした.島を脱出するに当たって2人が乗るヘリコプターを,別当家の監視衛星に加え九郎の操るステルス戦略爆撃機B-2 で隠すあたりの構成は本当によくできていると思います.

流刑島を無事脱出し,明人は非日常の世界に残るか否かを九郎に再び問われます.非日常への憧れは残るものの,ベレッタかしずかかと問われ明人は迷わずしずかを選びました.作中でほぼ何の活躍もしなかった明人ですが,4年の歳月を経てしずかを(親子3代にわたって願い続けた)平穏な日常に導くという素晴らしい仕事を最後にやっていたのですね.彼自身も,第1編では無価値だった日常に大切なものを見つけていました.明人が日常の世界に戻ることで物語は幕を下ろします.

別当・和泉 しずか・スカーレット

(C) ねこねこソフト
(C) ねこねこソフト

本作における事実上の主人公であるしずか.……本名,長いですね.強気でありながら甘えたがりの彼女は,籐野らんさんのお声も相まってとても魅力的です.

しずかはイリカのクローン成功体であり,本来であればイリカと同じ遺伝子疾患を抱えるはずです.しかし,レオンがその発病を否定していることから,おそらく何かしらの治療を施した上でのクローンなのでしょう.もしかすると,胸の成長を気にして,しずかが毎日欠かさず牛乳を飲む地道な努力を続けることになったのも,その遺伝子治療(?)の副作用なのでしょうか.

葉山 美月

(C) ねこねこソフト
(C) ねこねこソフト

30代にしてメインヒロインの美月さん.ギリセーフどころかまだまだ大丈夫ですよ.お酒を飲んだ後のお説教にまきいづみボイスがよく合っていますね.

九郎との出会いは3章で語られます.高級諜報家という彼の世界に少しでも追いつくため,防衛庁に入庁しこの年齢で陸幕2佐まで特進しました.第4編エピローグでは,十数年越しの彼女の想いが終に叶ったようですね.愛の力は偉大です.

  • 疑問

    第2編においては一般的に正義と呼べそうな事柄に使われた高級諜報家の強権も,影響を受ける相手にとってはたまらないということを,身を以て知るときがやってきました.八郎氏がルールを作り上げたように,九郎も改革を行うことができるでしょうか.

  • 明人を追いかけていく

    冷静に考えれば脱出計画を確定してからしずかを向かわせるべきなのですが,そうも言っていられないほど,いつのまにか明人がしずかにとって大切な存在になっていたようです.

  • ステルス戦略爆撃機B-2

    明人が非日常に入るきっかけとなったベレッタM92FとB-2で物語を占める所に様式美を感じます.子供の名前も絵麗奈(エレナ)ですし.

  • 非日常の世界に残るか否か

    実際のところ,高級諜報家に深く関わり流刑島にまで行った明人としずかが真に一般的な日常に戻れるのかは謎です.他の諜報員の監視が何年かは続くのではないでしょうか.

  • 何の活躍もしなかった明人

    派手な活躍をしないのはこの2人なら日常生活に戻っても大丈夫だと思わせるためとしてとらえるのが好意的な見方です.

  • 日常の世界に戻る

    そして,ねこねこソフトに別れを告げられたプレイヤーも現実に戻ります.僕達の物語はこれで終わり.

  • まきいづみボイス

    彼女が凛々しく暗号について解説していると違和感しか覚えません.

  • 終に叶った

    ショートケーキの個数が3個であるのはそのためですよね.(待ち伏せして明人,しずかと,麗奈の3人分のケーキを買ったわけではないことにします.)九郎が高級諜報家のルールに疑問を持ったことで1/20以外の相手との結婚を考えたのだとしたら,そのきっかけとなった明人によるマザランへの発砲も失態ではなかったことになりますね.


3. Scarlett / みずいろの補色,あるいは昼と夜の境界線としての

ねこねこソフトは『みずいろ』(2001)において,普通の学園生活(!?)を通して大切な人が隣にいてくれることの素晴らしさを描いていました.その反対色であるスカーレット(≒緋色)を冠する本作では,非日常(諜報戦)を通して大切にしたい普通(居場所,日常)を見つけるお話を持ってきました.日常にこだわり続けたブランドが最後を飾るに相応しい作品ですね.

なお,このタイトルは,『みずいろ』以降の作品で「スカーレット」と名付けたBGMを収録し続けたブランドの最終作という面でも相応しいと思います.あるいは,昼の青空(日常)と夜空(非日常)における「境界線」としての夕焼けの意味も含まれていたのでしょうか.または,もっと単純に,丘の上のピクニックで渡り鳥が現れる時間帯(緋色の空)のことであり,大切で些細などこにでもある日常そのものでもいいのかもしれません.

  • 諜報戦

    諜報家が何よりも大切にする血統(縁).緋色はその血の色を連想させます.スカーレット家というワードがあまり重要ではないため,ブランドの歴史との繋がりに意味を求めないと,ただの音感の良いタイトルになってしまいます.

  • 「スカーレット」と名付けたBGM

    『みずいろ』:スカーレット,
    『朱』:Scarlet2,
    『サナララ』:スカーレット2004,
    『Scarlett』:scarlett 2006.

  • 渡り鳥

    「日常の中にある非日常」のこと.しずかは渡り鳥になる(境界線を越える)事を望まず,普通を選びました.


4. 関連項目

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  2. 外部記事

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Last updated: 2014-01-18
First created: 2014-01-11