『はるのあしおと』感想


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ジャンル インタラクティブ・ノベル
発売日 2004/07/23
はるのあしおと DVD初回特典版
評価点
78 / 100
最大瞬間風速 白波瀬(85/100)
総プレイ時間 18.3時間
主人公 5/10
お気に入り 楠木 あおい
ユーザビリティ 9/10 9/10
グラフィック 8/10 8/10
ムービー 10/10 10/10
主題歌 9/10 9/10
BGM 8/10 8/10
ストーリー 8/10 8/10
演出 9/10 9/10
感動 7/10 7/10
読後感 8/10 8/10

(評価点や作品に望むこと等については「レビューポリシー」をご参照ください。)


0. まずは一言
 心折れてしまった経験を持つ者の心を激しく揺さぶる成長物語。自己に対する絶望と他人に対する不信を抱えた少女たちに、いたく共感しました。落ち着いた雰囲気の中で紡がれる、彼女たちの重い言葉がとても心に響きます。

 これは、胸に痛みを抱えた者へのささやかなエール。自ら一歩を踏み出す者に、どうか春が届きますように……。

Attention!!
この感想はゲームをクリアした人に向けて書かれています。一部、前作『Wind』との対比もあります。
まだゲームをクリアしていない人が読むと、作品の面白さを損なうことがありますので、ご注意ください。

1.1. シンプルな成長物語
 『はるおと』は、ミステリーもファンタジーもない、シンプルな愛と成長の物語です。故郷に逃げ帰り臨時教師として女学園に赴任した主人公と、その教え子たちとの恋愛を描きます。恋愛に関係ないイベントは、季節的な学校行事でさえバッサリと省略されています。その分とても分かり易く、主人公やヒロインの心情とその変化が丁寧に描かれていました。彼らは自分の意志で選択し、そして決断します。何らかの蹉跌を経験してきた方は、彼らの言動に精神的な痛みや重みをたびたび感じることでしょう。
  • 心情
     ヒロイン視点で彼女たちの内面を表す場面が多用されています。
  • 蹉跌
     稲葉華子「人間ね、成長には蹉跌が必要なのよ。そして失敗だったと認める事がね」(『水夏A.S+ ~SUIKA~』)
  • 精神的な痛みや重み
     逆に言えば、特に何も感じない方は、同じような物語が繰り返されあまり楽しめないかもしれません。
1.2. 察しの悪い主人公
 主人公の成長が物語の中心に据えられているとはいえ、序盤から中盤にかけて彼の人間性の低さには耐えがたいものがありました。恐ろしい程の察しの悪さは仕方ないとしても、教え子への後先を考えない手の出し方は絶対に許せません。ただし、終盤では失恋を振り切り、大切な恋人のため将来を真剣に考えるほどまで変わる姿に、成長を感じる面もありました。
  • 察しの悪さ
     ヒロインからの好意に気が付かないという意味ではなく、もっと一般的な意味で言っています。和ちゃんばりに「わからないんですか?」と何度画面に向かって呟いてしまったことか……。
1.3. 紙芝居だなんて呼ばせないminori演出
 ヒロインの絵は幼くて可愛いく、行間の表情変化で感情の動きを上手く表現していました。また、多くのイベント絵を背景と一体感を持たせた立ち絵として扱い、瞬きやリップシンクまで徹底して行っています。夕日といった光源のある背景では、きちんと人物へ明暗を付けるところにこだわりを感じました。

 OP主題歌「春 ~ feel coming spring ~」を始めに、「cheer up!!」「tear」「soliloquy」といった素晴らしい楽曲に溢れています。主題歌やエンディングテーマのフレーズをアレンジしたBGM「recess」「resolution」「confession」などもお気に入りです。

 さらに、オープニングとエンディングで流れるフルアニメーションムービーは、主題歌の歌詞と映像と本編の内容とがすべて有機的にリンクしていて、何度でも見たくなる秀逸の出来でした。また、システム面ではテキスト、グラフィック、音声の全てを巻き戻せるバックログが非常に素晴らしい物でした。
  • 行間の表情変化
     言葉を返す前に目を1,2秒そらしてから笑顔で話す、など多数。
  • 背景
     街中なのに人が誰もいない、といったおかしな背景は1枚も出てきません。
  • フルアニメーションムービー
     オープニングムービーでは傘を開くシーンがやはりお気に入り。エピローグを丸々エンディングムービーにしてしまうというのも面白いところです。
  • システム面
     音声継続、オートセーブなど、私が求める機能でいっぱいです。欲を言えば、チャプターモードが実装されていないことが惜しいです。しかしながら、バックログが充実しているため、どうしても必要ということはなかったです。
  • バックログ
     欲を言うならば、テキストだけ巻き戻すモードも併設してくれると嬉しいです。

2. 個別シナリオやヒロインについて
 失恋して故郷に逃避した主人公と、自己に対する絶望と他人に対する不信を抱えた少女たち。後悔を繰り返さないために、彼らが自分の意志で決断し選択するまでの成長物語はとても心惹かれるものでした。なお、主人公と結ばれなくてもヒロインの悩みがおおむね解決されるところにも注目しておきたいです。
  • 自分の意志で決断し選択
     登場人物達の行動を選択肢で制御できない理由として、この意味が含まれていると解釈するのは、いささか好意的すぎるでしょうか。
2.1. 桜乃 悠(8/10)/ ひとりぼっちの“妹”
 母の死がトラウマとなり、10年以上前から時計の針が止まったままの悠。明るく元気な笑顔の裏には、哀しみの涙や不安が隠されていました。それゆえに一緒に帰る友だちさえ作ることが出来ず、彼女はずっとひとりぼっちだったようです。そこに父の入院が重なり、過去を思い返して徐々に焦燥が募っていきます。樹にまとわりつく悠のベタベタさはこれらの要因が積み重なった結果でした。

 悠の物語では和・ゆづきシナリオに比べて、純粋な恋愛のウェイトが大きめに取られています。2人の関係(悠に対する視点)が、子ども扱い→→恋人と変わっていく過程はそれなりに面白かったです。その後、悠は樹への依存をより強め、保育士になる夢を軽んじるようになります。この時の「悠の言葉に愕然」とした樹の反応を見て、彼の成長を強く感じました。東京でやり直すことを自ら選択した樹の強さを受けて、悠も病室のカーテンの陰でこれを受け入れる成長を見せます。きっと橋の上で指輪を交換する彼女は、もう心から笑えるようになったことでしょう。
  • 時計の針が止まったままの悠
     だからというわけではありませんが、小学生にしか見えないですよね、悠。なお、彼女の「樹ちゃーん」を聞いて、「タケルちゃーん」と呼ぶ声を真っ先に思い出したユーザーは決して少なくないはず。
  • ひとりぼっち
     「どうして悠が毎日違う人とお昼ご飯を食べてたのかわからないでしょ?」というセリフには少し思うところがあります。また、それなら1人くらい友達がいるのではないかとも思ってしまうのですが。 
  • 入院
     悠があまりにも心配するものだから、本当にお父様まで亡くなってしまうのか少しドキドキしていました。
  • 過去
     母の死に加えて悠のトラウマになっているのが、樹との2人乗りで起きた自転車事故。それが原因で悠が自転車に乗れないというのならば、2人乗りは絶対に出来ないと思うのですが、いかがでしょうか。……そもそも2人乗りしてはいけないのですけど。
  • 樹にまとわりつく悠
     和やゆづきシナリオで悠がほとんど登場しないというところに違和感を覚えるかもしれません。鏡さん(和・ゆづき担当)と北川さん(悠・智夏担当)による複数ライター制の弊害と言えますが、彼女たちの交友関係(幼馴染や親友という設定)に支えられているとも言えます。

  •  「おにーちゃんのこと好きだから、だから『お兄ちゃん』じゃなくて良かった」というセリフはちょっと好印象です。あと、白波瀬の電話から、とどめとなった樹による恋人関係の否定など、ありがちな展開かもしれませんが悪くなかったです。
  • 心から笑える
     「心から笑う」という言い回しは、私の心を揺るがす、ある種のトラウマワードの1つです。
2.2. 藤倉 和(8/10)/ “優等生”が抱いた未来への不安
 未来への明確な目標を持てなかった。「待ってるだけじゃ何も始まらない」といった彼女の言葉の1つ1つが重く、そして心苦しかったです。彼女の不安は決して「そんな大層な悩み」ではないのかもしれません。しかしながら、聡明だからこそ完全を求めて保証のない将来を嘆き、未来に手をかけた樹やゆづきを羨む彼女に、いたく共感してしまいました。他にも「最後の賭け」だったと告白する白波瀬の電話、保護者気取りの和を見返そうとしたゆづきなど、見所あふれるイベントが多数ありました。

 ただ、あえて苦言を呈するならば、5章おわりから終章にかけて連絡も取り合わず4年間も離ればなれになる必要はなかったのでは、とも思います。東京でお互いの夢を一緒に目指せばいいのではと感じてしまうのは、私が弱いからでしょうか。運命の赤い糸なんてなかなか信じられるものでもありません。

  •  メガネキャラで好きなヒロインと珍しく巡り会いました。「なごみ」よりも「のどか」と読みたくなってしまいます。おそらく、『咲-Saki-』の原村和のせいです。 
  • 大層な悩み
     文武両道の和や、才色兼備のゆづきがどうしてここまで絶望しなければならないのか。読者がこれまで挫折をどれだけ経験してきたかで、その共感の深度に大きな差が出ることでしょう。また、智夏シナリオのお悩み相談室で、樹は生徒の悩みを大層なものではないと言っていました。失恋で数か月引き籠ってしまった樹はもちろんのことですが、ヒロインたちにも言えるのかもしれません。 
  • 最後の賭け
     もちろん、『Wind -a breath of heart-』の鳴風みなもによる、挿入歌2周半の問い詰めを思い出さずにはいられません。みなもの最後の賭けは「海辺でのキス」でしたが、そのくらいでなければ、樹では白波瀬の気持ちを察することはできなかったのでしょうか。あと、さらに話は脱線しますが、悠のエンドムービーでみなもやひなたが登場したり、藤宮さんというウェイトレスが登場したりと、『Wind』との関連が気になるところです。
  • ゆづき
     和とゆづきが、お互いを尊敬しあい、羨ましく思い、そして妬んでいるところがまた面白いです。 
  • 多数
     他には教頭代理こと、楠木あおい先生の恋物語。彼女が樹を初めて「先生」と呼び、桜鈴を去ってしまうエピソードはなかなかお気に入りです。本作で1番好きなキャラクターです。
  • 連絡も取り合わず
     桜乃家の実家を訪ねれば樹の所在はすぐに分かるだろうから、夢を実現した後に再会(しようと)することはそれほど難しくなかったかもしれません。 
  • 一緒に目指せばいい
     悠やゆづきと違い、和は樹にそこまでは依存していません。むしろ、お互いに相手と肩を並べようとする関係です(だからこそ、桜鈴学園に残るという選択肢も成立しうるのでしょうけれど)。20歳前後の4年間は貴重ですよ。なお、そもそも数年間距離を置いてから必然の再会を果たすという構成自体が、ちょっと他作品にはないところかもしれません。 
2.3. 楓 ゆづき(7/10)/ “希望”を見いだせなかった少女
 自らに希望を持てず、不要とされることを恐れて世界を閉じてしまったゆづき。始めから何にも期待しなければ裏切られずに済むという考えには、いくらか同情するところがあります。ところが、樹があまりにも激しく情欲をゆづきにぶつけるため、彼女の物語を十分に楽しむことはできませんでした。ここまで主人公に相手の想いを無視されてしまうと、「愛と成長の物語」という前提すら崩しかねません。特別賞やその授賞式、さらには携帯電話の番号を教えないゆづきについて、彼女の心理描写や樹および和の反応などはとてもよかったと思うだけに残念です。しかしながら、終章は強くなったゆづきの新人賞受賞スピーチに加え、白波瀬の登場・問いかけという仕掛けが待っていました。最後の最後、その美しさにはすべてが救われた気がします。
  • 「愛と成長の物語」という前提
     教師と生徒の恋愛を否定こそしませんが、学園生であるヒロインたちに膣内射精を繰り返す主人公は、今すぐ教職をやめるべきだと思います。特に、和の忠告とゆづきの懇願を無視して避妊しなかった時のモノローグ「膣外射精は避妊にはならないが、このまま止めるという選択肢がない以上、やむをえない」を見た瞬間は、この作品を読み続けるのをやめようかと真剣に思いました。このような人物に教師としての夢や成長を語られても困るのですよ。主人公を徹底的に断罪できる分岐(選択肢)がないことが惜しまれます。成長物語なら、現実の厳しさを突きつけてあげてもいいのではないのでしょうか。
  • 彼女の心理描写
     「変わらないものなんてないですよね。人の心なんて一番変わりやすいものじゃないですか。先生、東京に好きな方がいたのですよね。その人を好きになったときも、もう他の人を好きになることはないと思いませんでしたか?」というセリフが大好きです。
  • 白波瀬の登場・問いかけ
     和シナリオにおける不意打ちもずるいですが、この問いかけはもっとずるいです。
2.4. 篠宮 智夏(8/10)/ 一歩を踏み出していた幼馴染
 悠・和・ゆづきシナリオのアンチテーゼにして、『はるおと』の最終エンディング。智夏は保険医として教師の理想像を体現し、赤い糸を自ら手繰り寄せました。自転車事故や読まれなかった手紙といった過去をきっかけに、彼女は心的にとても強く成長していたのですね。お悩み相談室で生徒の力になれる喜びを知った樹は、きっと桜鈴学園で「いい先生」になるべく努力を重ねていくことが出来るでしょう。そんな「はるのあしおと」が聞こえてきたところで、「未来はちっぽけな勇気で拓かれる」という応援歌は幕を閉じます。エピローグでは、愛娘・ほのかの成長を通じて夢を叶えた3人が描かれ、素晴らしい余韻に浸ることが出来ました。この作品をプレイして、本当に良かったです。
  • 最終エンディング
     智夏シナリオは悠・和・ゆづきシナリオのアフターストーリーというイメージ。つまり、エンディングムービーあるいはその手前に相当するエピソードを描いているのですね。 
  • 自転車事故
     トラウマから抜け出せない悠と、夢を決めた智夏。
  • お悩み相談室
     生徒の相談を解決していく中で、白波瀬が「教師に向いている」といった根拠が垣間見えます。智夏の指輪を探す件でも樹が本質的に優しい人物だということが示されますが、どちらかと言えば、これはヒロインに好かれる理由としての要素の方が大きいですね。 
  • 桜鈴学園
     樹が成長の可能性を自ら自覚し、また、智夏もすでに心の成長を終えているため、樹は東京へ行かず芽吹野で教師を目指すことが出来ます。 
  • 応援歌
     「待っているだけでは何も始まらないし、何も手に入れられない」が本作のテーマの1つでした。この最終シナリオ(結論)は、智夏が勇気を振り絞ったように、あなたも一歩踏み出せば春は訪れるよというエールなのです。 

3.1. 心にとどめておきたい言葉

誰かを好きになれば、同時にたくさんの不安を抱えることになる。
それらを乗り越えていくことを、恋と呼ぶのかもしれない―――
桜乃 樹

待ってるだけじゃ何も始まらないし、何も手に入れられませんよ。
藤倉 和

何も言わなくても自分の気持ちを分かってもらえると思うのは甘えですよ。
藤倉 和

気持ちは言葉にしないと伝わらないから。
篠宮 智夏

必死になって受験勉強なんかしているのは、他にすることがないから。
やりたいことがないからっていう消極的な理由で選んだのよ。
藤倉 和

3.2. 関連項目
  1. 関連作品の感想
  2. 外部記事

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Last updated: 2012-06-20
First created: 2011-11-27