『天使のいない12月』感想


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タイトル 天使のいない12月外部サイトへリンクします。
ジャンル ADV / VNL
発売日 2003/09/26
天使のいない12月 DVD-ROM版
評価点
76 / 100
最大瞬間風速 雪緒(85/100)
総プレイ時間 11.7時間
主人公 6/10
お気に入り 須磨寺 雪緒
ユーザビリティ 7/10 7/10
グラフィック 8/10 8/10
ムービー 7/10 7/10
主題歌 7/10 7/10
BGM 8/10 8/10
ストーリー 7/10 7/10
演出 8/10 8/10
感動 8/10 8/10
読後感 8/10 8/10

(評価点や作品に望むこと等については「レビューポリシー」をご参照ください。)


0. まずは一言
 お互いに傷付け合い色々なものを失いながらも、自分の見つけたい幸せに気付いた人々の物語。奇跡も天使も登場しない物語はどこまでも夢がなく、恋愛や心を繋げることについて思い直す機会を提供してくれました。心のつながりを追い求めた彼らの物語は、醜くも美しい世界でした。
  • 傷付け合い
     相手を傷つけるだけではなく自らも苦悩するお話。ヤマアラシ(あるいはハリネズミ)のジレンマを思い起こさせます。いや、そんな綺麗な純愛ではありませんが。
  • 天使
     優しい心で癒してくれる女性のことを「天使」と言います。そんな偶像化された女性ヒロインは登場しませんでした。親近感がわくことはあっても好きになれるヒロインが何人いましたか?

Attention!!
この感想はゲームをクリアした人に向けて書かれています。
まだゲームをクリアしていない人が読むと、作品の面白さを損なうことがありますので、ご注意ください。

1.1. 逃避を続ける主人公
 生きる意味を見いだせず、厭世的な日々を過ごす学園2年生がこの物語の主人公。しかし、その実態はただの捻くれ者で、性根が悪くなりきれていない単なる無気力な子供でした。すべてのものは無価値であるという彼に全く共感出来ないという方も多いのではないでしょうか。物語を楽しみ辛くしている大きな要因の1つですので、このような性格になった背景の描写が欲しかったです。
  • すべてのものは無価値である
     だからこそ「人は皆、生きるだけの価値を見出すために生きている」のです。(『ブギーポップ』シリーズ)
  • 全く共感出来ないという方
     むしろ、共感できない人の方が人生をまっとうに楽しめて幸せだと思うのです。無駄なことに絶望しなくて済むのですから。
  • 楽しみ辛くしている
     このような主人公に名前変更の機能は必要ないと思います。そのおかげで、デフォルトの名前にさえCVが入らないと思うと残念でなりません。重要なセリフでは「あなた」や「君」と声のみ言い換えがありましたが、それくらいなら全部に声を当ててほしかったです。ポップアップするコンフィグ画面やグラフィックまで戻るバックログなど、他のシステム面では優れているのにもったいないです。(ただし、既読スキップの解除に関することは除きます。)
1.2. 儚く淡い、透明で空虚な世界で
 そんな彼の世界観を反映してか、立ち絵等のCGにおける色使いも淡くて儚い雰囲気を纏っています。BGMもアコースティック・ギターとピアノを中心とした寂しくて物悲しい雰囲気の楽曲が多いです。曲名も含めて好きなのが「それでも誰かを好きになる」ですね。EDテーマ「ヒトリ」はピアノヴァージョンと合わせて大変よく、ヒロインの10年後を想像しながら聴くとさらに切なくなります。
  • 立ち絵等のCG
     もっとイベント絵を増やしてほしいと感じました。Hシーンの比重が大きいからそんな感じがするだけかもしれません。
1.3. 消化し辛い重みのあるシナリオ
 クリスマスが間近となった11月末。恋愛に抱いている理想や、思い込んでいる「好き」という言葉の定義に振り回される彼らの物語は、心情を読み取るためにはいくらか行間を埋めていかなければなりません。主人公やヒロインたちのような悩みを持ったことがない(理解できない)人には、彼らの言動やそこに至る動機が大げさに感じられてしまうかもしれません。
  • 言動やそこに至る動機が大げさ
     それはきっと、多くの人にとっては些細な違和感なのだろうから。

2. 個別シナリオやヒロインについて
 能動的に死ぬことはできない主人公が、一時の安らぎを求めたが故に世界と向き合って贖罪するお話。心のつながりは「永遠ではなく、真実でなく、ただ、そこにあるだけの想い」なのかもしれませんが、それを追い求めた彼らの物語は醜くも美しい世界でした。優しさで守れる明日もあるかもしれない、そんな可能性を一部ルートで暗示した終わり方も良かったと思います。
2.1. 栗原 透子(7/10)/ 心のつながりも欲しくて
(C) Leaf
(C) Leaf /『天使のいない12月』
 誰かから必要とされたかった透子。主人公に求められた体のつながりは、自らの存在価値を実感できた唯一の手段だったのかもしれません。屋上から放り投げられた煙草の吸い殻は、彼女にとっては舞い降りる天使の羽のように感じられたのでしょうか。初めは肉体関係だけでも、犬を飼い、携帯電話を購入してメールしあう中で、他人のために何か出来る喜びを2人は感じていきます。

 その「呼び名さえ無い関係」は、透子がしのぶ(と主人公)に向けて放った「どうせ心なんかつながるはずない」の一言で、突然に終わりを迎えます。透子に拒絶された主人公は自宅に引きこもってしまいました。しかしながら、最後に2人を再び繋げたのは、透子としのぶの友情でした。透子のことを真剣に考える主人公と、足りない何かを感じる透子。これらの気持ちを「好き」と言わずに何と言えばいいのでしょうか。2人は体を重ねていく中で、ただそれだけ以外のものを少しずつ心の中で育てていました。雪が降る中で初めてした服を着たままのキスから、彼らの「恋愛」が始まったのだと信じたいものです。
  • 透子
     物語冒頭の授業で“This has been neglected in the…”という英文を透子は読まされますが、彼女の心情をまさに表しています。「あなたのこと必要としている人はきっと必ずひとりはいるから」という歌が1998年にありましたが、この「きっと」という言葉が私は大嫌いで仕方ありませんでした。 
  • 拒絶
     「どうやったら、心がつながるの……?」主人公との心のつながりは体のつながりから生まれるのか。しのぶとの友情はそれほどに軽いものだったのか。そういった葛藤が透子にはあるのですね。 
  • 信じたい
     ゲーム開始時にまともに話すことさえできない透子を見たときは、どうしようもないほどの煩わしさを感じたものです。ところが、全ルートを読了する頃には、彼女の幸せを切に願わずにはいられませんでした。彼女の必死な努力や想いが他ヒロインのルートで見えてくるからでしょうか。 
2.2. 榊 しのぶ(7/10)/ 罪を重ね続ける贖罪
(C) Leaf
(C) Leaf /『天使のいない12月』
 知らないうちに透子を傷つけていたしのぶ。弱い透子を守るのは、もはや優等生的な正義感からだけではありませんでした。透子ルートにて受ける心のつながりの否定は、しのぶの存在意義すら揺るがしてしまいます。お互いにすべてを理解しあえていると思っていたのは、彼女の思い込みでしかありませんでした。

 しのぶシナリオでは、彼女は主人公と透子の情事を抑えようとして、逆に自らの痴態を主人公に晒してしまいます。ここで、彼女は主人公に犯されることを望みますが、この心理がいまいち掴めませんでした。親友を助けなかったことへの裏切り、あるいは隠すべきと思っていた性欲の暴露。脆い少女は罪の意識に耐えられなかったようですが、それが自傷行為と最も嫌いな人物との性交渉による贖罪に結びつくかは疑問です。

 また、この贖罪はかえって透子を傷つけるものであると、しのぶは気が付かなかったのでしょうか。透子に2人が隠れてお付き合いしていると誤解されたことにより、しのぶは主人公に体だけではなくて心まで犯すことを要求します。2人は罪の意識のもとで、今後も体を重ねていくのでしょう。
  • 性欲の暴露
     なお、物語を読ませるノベルゲームで「あとは家に帰って、ゴハン食べてオナニーして寝るだけ」とヒロインに言わせしめたことは、覚えておかなければいけないことだと思います。 
2.3. 須磨寺 雪緒(8/10)/ 失うことが怖かった
(C) Leaf
(C) Leaf /『天使のいない12月』
 自殺願望を抱かずにいられなかった雪緒。幼少期に囚われた憂愁から、彼女は心を閉ざすことを選択します。いつか悲しい思いをするならば、その温もりには触れたくない。そんな彼女の考え方にはいくらか共感するところもあり、物語には深く入り込めました。最後の屋上から一歩を踏み出すシーンは、その直前のえっちから落ちた音まで含めて、とても美しく感じられました。

 天使のおかげなのか、雪緒が死を躊躇したことで助かってしまった2人。達観したふりをしていた主人公と、そこに鎧を纏っていた少女は、きっと前を向いて生きていけることでしょう。そう遠くない未来、彼女が周囲に笑顔を振りまけるようになることを期待しています。家族を想って涙し、側に人がいることを嬉しく思える君たちが、自殺を口にするのはまだ早いですよ。

 ところで、このルートでは妹の恵美梨ちゃんが大きく関わってきました。彼女はお兄ちゃんと慕うようなノベルゲームにありがちな妹ではなく、兄と悪口を言い合うまったく夢も希望もない関係でした。しかしながら、自殺を仄めかす雪緒から妹を遠ざけようとしたり 、飛び降りた兄に涙したりなど、兄妹愛を感じられる場面があります。また、真帆ルートで、透子にあげる予定だったぬいぐるみをもらった時の憎まれ口、それに続く「……ごめん」からは、彼女の素直になれない複雑な想いを垣間見ることも出来ました。
  • 雪緒
     彼女はあくまで自殺について考える程度の自殺願望者であり、本気で自殺できるほどの自殺志願者ではなかったようです。
  • いくらか共感するところ
     それは、私が似たような、あるいはより一般化され重症な思考をもっているからに他ならないわけですけれども。なお、雪緒の心が壊れた理由が愛犬の死というのは、多くの読者にとって軽く感じられてしまうのではないでしょうか。 
  • 物語
     同意関係であるのにもかかわらず周囲からは批難され、当事者間でも心がつながらないという複雑さも面白いです。
  • 直前のえっち
     ここで雪緒に踏みとどまらせるだけの影響を心に与えたのでしょうか。あるいは、えっちを持ちかけた時点で自殺する気持ちは揺らいでいたのかもしれません。自殺願望があることを話した時点で、主人公は彼女にとっての特別の存在となっていたのでしょうか。このお話からは純愛を感じることが出来ました。
  • 落ちた音
     暗転後に病院での一幕にすぐ繋げるのではなく、ここにエンディング(スタッフロール)を挿入してもよかったと思います。  
  • ノベルゲームにありがちな妹
     いわゆる攻略の対象ではないことに驚き、妹キャラへの固定観念の大きさを思い知りました。幻想なんですよ、ええ。
2.4. 麻生 明日菜(7/10)/ 愛されるためには……
(C) Leaf
(C) Leaf /『天使のいない12月』
 いつも笑ってすませる自分を演じていた明日菜さん。家族から愛情を注がれなかった幼い日々が彼女を歪めてしまったのでしょうか。学園時代の援助交際を経て、明日菜さんは自らの心を満たしてくれるお人形を求めていました。急な告白や不自然なほどあふれる愛情がここに繋がるとはなかなかの驚きでした。主人公が彼女の過去を正視できず、1度逃げ出してしまうのも無理はないかもしれません。嘘から始まった交際や仮初めの想いでも、本物になることはあるのだとラストのマフラーからは信じたいです。

 なお、明日菜さんは主人公に犬の言葉が分った方が面白くないかと問われ、「自動エサ出し機にしか思ってないってわかったら悲しいもの」と答えています。心の繋がらなさの絶望をこんなところでも煽ってくるところが大好きです。
  • 明日菜さん
     店長の「……もっとも、誰も見ていない芝居はつらいがな」という言葉が重いです。
  • 愛情を注がれなかった幼い日々
     愛情に溢れすぎた雪緒は、突然の悲しみに耐えられない弱い女の子になってしまいました。難しいですね。 
  • 援助交際
     英語教師の橘から真相を聞くのは(交際する彼氏として、あるいは物語として)適切だったのかは迷うところです。
  • 心を満たしてくれるお人形
     「じゃあ、君はあたしのなにがスキだったの?[…略…]それとも、優しくて、楽しくて、セックスが気持ちいい以外になにか必要なものがあったの?」という言葉に、何を返せるのでしょうか?
2.5. 葉月 真帆(7/10)/ 体のつながりは必要ですか?
(C) Leaf
(C) Leaf /『天使のいない12月』
 変わってしまうかもしれないことを恐れた真帆。体のつながりが心のつながりを変えてしまうこともあるでしょう。極端な性格のヒロインが多い中で、心のつながりさえあれば良いという彼女の恋愛観 (あるいはセックスへの考え方)は、読者の共感を1番得やすいものだと思います。「スキならセックスに応じないとダメなんですか?」と、ある種の前提に対して疑問を提示するのは面白いところです。

 功の彼女であることから主人公と真帆は接する機会も多く、人懐こい笑顔の彼女とは一定の親交がありました。功との恋愛観の違いを悩み主人公に頼る中で、彼女は心と体を分けて考える主人公に共通項を見出します。ただ、彼女が功ではなく主人公に相談するのは良いとしても、心のつながりを期待して主人公に体を開くのは意味が分かりかねました。お互いが相手のことを好きなのに妥協できなくて別れる功と真帆、そして正反対の考えを持つが故に繋がれない真帆と主人公。最後の美しい別れのシーンは、最も希望のない悲しみに包まれていたように感じました。ちょっとしたすれ違いで終わってしまうのが恋なのですね。
  • 共感
     真帆「スキって、心をスキになるんじゃないんですか? それともHしないとスキって気持ち、伝わらないんですか?」彼女にとっては、愛情表現や愛を確かめ合う手段ではないのです。 恋人に喜んでもらいたいからエッチすることが、ノベルゲームにおけるヒロインの基本だと思っていました。
  • 前提
     もっとも、全登場人物の中では、セックスしたいから恋人を作るという功の考えが1番分かり易いかもしれませんが。ただし、彼は恋人をとても大切にしていたことだけは無視してはいけません。
2.6. 作業としての性交渉
 本作において性交渉とは1つの作業であり、決して愛情にあふれるものではありません。生の実感を得るための手段でしかないのです。それは他作品ではなかなか触れる機会のない概念だと思います。性描写にあまり注目することはないのですが、今作ではいくらか興味を引かれました。主人公はひどい男性ですが、何らかの同意の元においてえっちをしているため不快に感じることもありませんでした。

 ところで、みなさん「セックス」って言葉を使いすぎではないですか?このぐらいの年頃では「抱く」とは言わなくても、「やる」「(えっち)する」など漠然とした表現を用いると思うのですが、いかがでしょうか。
  • 性交渉
     いきなり性描写から始まる導入には大変驚かされました。
  • 何らかの同意の元
     ヒロインの判断する能力を奪うこともなく、完全に両者の合意がとれています。第3者からは全くそうは見えないかもしれませんけれども。

3.1. 心にとどめておきたい言葉

あってもなくてもいい一日。
みんな、なにがおもしろくて生きてるんだろう?
木田 時紀

ドキドキするの。飛び降りたらどうなるんだろうって
みんな、屋上に上がったら考えるでしょう?
須磨寺 雪緒

わたしたちには意味がない、世界にだって意味がない……
それでも、わたしたち……生きていかなくっちゃいけないんだね……
須磨寺 雪緒

誰もあたしを救ってはくれない
だって……あたしはいつも待っていたから
きっと誰かが……あたしを救ってくれると信じていたから!!
麻生 明日菜

心なんてわかるはずなかったんですね……
葉月 真帆

3.2. 関連項目
  1. 関連作品の感想
  2. 外部記事

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Last updated: 2012-10-10
First created: 2012-01-24